零の旋律 | ナノ

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 ――今日の出来事は想い出となり、記憶に刻み込まれるだろう、決して記憶から忘却されることなく。

 次の日――白とは対極の黒いジャケットを羽織、一人で再び篝火たちの前に烙は姿を現した。
 丁度それは家から出てきた所。偶然か必然か――斎は置いてきていた。是から行くのは第一の街復興作業の手伝い。重労働になるであろうから、完治していない斎は置いてきていた。それは幸か不幸か烙と相まみえることはなかった。腰には白い刀を帯刀しているが、罪人の牢獄で武器を所持していることは別段何の不思議でもない為誰も気にとめない。最も未だに拳銃類の所持はこの街で禁止されていた。

「斎は?」

 烙は武器に手をかけない。本来ならこの場に一緒にいるだろう斎がいない。出来るだけ冷静に努めようとしているのか普段より声が低い。無理に感情を抑えようとしているのが嫌でも伝わる。

「あいにく様、怪我が完治していなんで置いてきた」

 相手の勘に触るような態度で朔夜が答える。手は上着のポケットに入れたまま。
 実際、斎に怪我を負わせたのは烙。朔夜が今この場にいる烙に対していい感情を抱いていない。

「……そうか」

 暫く沈黙の後烙は返事をする。やっと声を振り絞ったような声だ。白き断罪を無断で抜け出してきたのは斎と会うため。会って話したかった。自分の目的が夢華には見透かされている気がしていたが、会いたい衝動は抑えきれる事が出来なかった。
 悩み悩み上げた結果、烙はここにいた。

「で、斎に何のよう?」
「……斎の怪我の様子が気になった、だけだ」
「お前が怪我をさせといてよく言うな」

 なおも突っかかる朔夜だが、攻撃しないのは斎の事を知っているから。斎が自分を斬りつけた烙に対して一切恨みを抱いていないことを。烙の事を今でも大切に思っている事も。最も、だからといって敵は敵であり、斎を傷つけた事実も変わらない。烙が刃を向けてくればすぐさま戦うつもりだった。

「わかっている、俺が斎に怪我をさせた。――だからこそ此処に来た。あの日の真実を聞くために」

 知らないまま唯嘆くのは御免だ。

「一つ聞いていいか?」

 篝火が一歩前に出る。烙は下がらない。

「なんだ?」
「何度も勝手な行動をとればそれは背任行為とは取られないのか?」
「……」

 烙は黙る。

「それと一つ。こっちの方が重要だな。斎は罪人である以上そちら側に戻る事は出来ない。もし――二人が親友に。元の鞘に収まりたいのならお前が此方側に来る必要がある。罪人を憎みお前が、罪人と同類にみなされたいのか?」

 全てを覚悟の上で、今あるものを全て捨ててでもたった一人の親友をとるのか。
 それともたった一人の親友を忘れて今あるものを大切にするのか。

「……」

 烙は答えない。

「お前のとこの隊長は罪人を毛嫌いしている」

 だからこそこの地で罪人を殺している。

「お前が何を選ぶのかはお前が決める事だろうが、それでも――お前は仲間を敵に回したいのか?」

 苦楽を共にしてきたであろう仲間。
 裏切られた親友、裏切った親友。

「斎に会いたい」
「断る」
「何故だっ」
「斎を殺さないという確証は何処にある? 何処にもないだろう」

 会ってすれ違いが起こり斎を殺されてはたまらない。親友だった。過去形では意味がない。斎は真実を烙に語るつもりはない。烙がそれを認めるか否か。
 仮に今現在だったとしてもすれ違いは何時でも起こりえるもの。些細なすれ違いが大きなほつれとなり取り返しのつかない出来ごとに発展する可能性もある。
 それは烙と斎の関係に限ったことではない――

「会わせろ」

 烙が白い刀を抜く。真摯な瞳で篝火を射抜く。


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