零の旋律 | ナノ

V


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 ――ただ一人にしないで、悲しみにあふれるこの鼓動を止めて。なんのために私は存在して
 ――ダレノタメニイキツヅケル?

 音沙汰も何もないまま日々が過ぎた。まるで最初から白き断罪等存在しなかったように、そんな錯覚に陥る。しかし現実にはまだ白き断罪がいる。何処かで虎視眈々と狙っているのだろう。
 一人の青年が砂を踏みしめ一歩一歩歩きだす。

「……行こう」

 向かう先は第二の街。決意した青年が目指す場所。

+++
「何故、望んだそれをっ」
「もしも本当に俺のことを思って、斎が罪を犯したのなら、俺は何をすればいい、どうすればいい」
 目的を道を失った。進めない。

「なら、仲直りすればいいだけだろ」
「ならっ……俺は何のために」

 刃と刃はぶつかりあう。貫くため。

「親友だと認めているなら、仲直りすればいいだろう。手遅れになる前に」

 自分と同じことを繰り返さないために。
 一緒にいるために。
 命を失ってしまえば、もう二度と手を繋ぐことが出来ないのだから。
 だから、だから、失わないように。しっかりを手を握り締めて――

++++
 斎の怪我も治療の甲斐があり、日常生活を送る程度なら支障がなくなり始めた頃、四人は第二の街で買い物をしていた。四人そろって買い物に出かける事は滅多になかった。
 新鮮な気持ちで歩いている中、見知った二人組が歩いてきた。
 真っ赤をベースに、細かい模様に彩られた服装。真っ赤な髪は揃えられていておかっぱだった。黒い瞳の下には黒い模様が施されている。メイクなのか刺青なのか篝火たちは死らない。年の頃合いは十三、四。雛罌粟と同等に幼い容姿は罪人の牢獄では目立つ。もう一人は、黒髪は長くみつあみで纏め腰付近まである。水色の相貌が無邪気な子供のように周辺を見回している。オレンジをベースにした和服と、黒い軍服のような形をした服を独特に組み合わせて着ていた。年の頃合いは二十代中頃。

「なんで紅於(こうお)と水波(みずは)が此処にいるんだよ」

 赤い少年は紅於と呼ばれ黒い青年は水波。

「散歩」
「帰れ!」

 呑気に答える水波に思わず声を荒げる朔夜。

「えー、偶には息抜きも必要だよ」
「いつも6割は息抜きで生きてそうな、第三の街支配者とその部下が何をしているんだよ」
「冷たいなぁ。朔ちゃんは」
「気色悪いから止めろ」

 水波(みずは)と呼ばれた青年は第三の街支配者であり、紅於はその腹心の部下だった。本来は第二の街にいないで第三の街にいるべき存在。普段は第二の街をふらついていた所で気にも留めなかっただろうが、今は白き断罪が各地で罪人を殺しまわっている。そんな危険の中悠長に街の実力者がふらついていいのかと疑問を覚えたからだ。第一の街支配者である榴華は現在柚霧と一部の罪人とともに第一の街にいる。復旧作業を行っていた。

「そんな怪しそうな顔しないでよ。本当はね、雛罌粟に呼ばれたから着ただけだよ」

 水波は内緒話をする子供のように朔夜に本来の目的を教える。

「ふーん」
「でもね、実はねぇ。僕の街は殆ど被害がないからって集まるの二回目なのー」
「は?」

 嘆く水波に、言葉の意味が理解出来なくて朔夜は眉を顰める。

「榴華や雛罌粟ちゃんは銀髪と結構回数あっているんだよー実は。僕だけ仲間外れとか酷いよね」

 ぷんぷんと怒りながら水波は笑う。
 酷いとか言いつつも実際は特に酷いと思っていない証拠。

「というわけでしつれいー」

 何処までも年齢に似合わずに、無邪気さを醸し出す水波の隣で、紅於はひそかにため息をついた。

「ふざけてないでさっさと用事を済ませますよ。水波さん」
「少し見学しない?」
「駄目です」
「紅ちゃんの意地悪」
「意地悪でも、なんでもいいですから。用事終わらせて帰りますからね」

 どちらが年上かわからないやりとりをしながら、篝火たちの前を通り過ぎていく。向かう先は雛罌粟宅。


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