零の旋律 | ナノ

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 白き断罪拠点――由蘭が作り上げた拠点の中で壁に衝突する鈍い音が響く。
 少し遅れて刀が床に突き刺さる。

「そう、睨まないでほしいんだけど」

 壁に突き飛ばされた烙は、自分を突き飛ばした人物を忌々しそうに睨み、右手で刀を掴み再び構える。

「何故白き断罪を裏切った? 此方とお蔭で雑務やら何やらで大忙しだ」

 漆黒の長髪と緑色の双眸が呆れたように眼前にいる白蓮の面々を順に見て行く。第二部隊“陽炎”体調悧智(りさと)。一言で言えば白服が似合わない。

「たいちょーは何も雑務していませんけどねー」

 悧智の隣に二人の男女が並び、片方が茶々を入れる。 

「勝手に罪人の牢獄に着て、どうするんだ全く」

 悧智はため息をつく。

「何時までも政府は罪人を放置している。私はそれが許せなくて無くそうとしただけだ」

 白圭が一歩前に出る。後ろに控えるは白蓮の面々。烙は刀を、由蘭は本を其々の武器を構える。
 数分前の出来ごとだった。突如として第二部隊隊長悧智(りさと)とその部下が現れたのは。
 理由は態々問うまでもなく簡単で、組織の命令を背き、姿をくらましあまつさえ罪人の牢獄を勝手に滅ぼそうとした。明らかな命令違反だから追手がきた。それは予期していないことではなかった。

「残念だ白圭。――理想を違えたのかもな」

 その言葉に焔や砌も武器を構え始めるが、

「別にいーんじゃないですかぁ?」

 それを止める声が一つ。先ほど茶々を入れた悧智の部下の一人だ。

「別に放っておいても。どーせあたらしらも罪人嫌いなわけですし、滅んでくれたら一石二鳥ですよ?」

 さらに、悧智の部下の一人が同意する。

「そうですね、仮に本当に滅ぼすことが出来るから、それに越したことはないでしょう。現政府は、罪人に頼りすぎな部分もあるわけですし、ならいっそ放置しておくのも手ですよ」
「そうそー。たいちょーだって罪人嫌いでしょ? 罪を憎んで人を憎まず? そんなこと出来ませんしねー。人ですから人も憎んじゃいますよ。ですから彼らが此処で少しでも消してくれたらいいじゃないですか」

 二人の意見に悧智は納得する。進んで消してくれる相手を態々消す必要はない。
 本気で白蓮を消すとなると、被害は此方にもおよびそして――罪人も生き残る。

「たいちょーが三思九思すると気味悪いですよー」

 暫く黙っていた悧智を見かね、笑いながら部下の一人が声をかける。

「気味悪いとか言うな」

 罪人の牢獄で罪人が生き続けるくらいなら一人でも多くの罪人を葬り去ってくれた方が悧智としても有難かった。

「そうだな。なら後始末処理班を置いていくから好きに使え」

 後始末処理班という言葉に部下の二人はえっと驚きの顔をする。


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