V 来訪者は笑う。そして告げる。 「この地を見るために送られてきた、銀の諜報員よ」 戯遊と珀露は罪人ではない。 政府が罪人の現状を、罪人の支配者からもらう情報以外を欲したために送り込まれた存在。 いわばスパイのようなもの。 まだ、目的は果たされていない。 この地でみたことを、情報を正確に直接伝えなければ。定期的にやりとりをするのではなく、この目で見たものを、この耳で聞いたものを、この肌で感じたもの全て、包み隠すことなく報告をしなければならない。それが二人の仕事であり目的。 そして、それを報告されたくないから、彼の者は現れた。それを阻止するために。 彼の者は嘲笑う。放置するつもりはない。見つけたのなら、殺すだけ。 「遍く死が集うこの地で、俺に勝てるとでも?」 「さぁ、それはやってみなきゃ、わからないでしょうによ、こちら二人でいくんだしねぇ」 珀露がまずは舞う。手を広げ回転する。 回転すると、重しの威力で壁の一部を破壊した。 来訪者は攻撃を確実に見切ってから鎌を振る。珀露は足の軸を変え、身体の重心をしたに移動させて交わす。珀露が下に移動したのを見計らい構えていた戯遊が弓を放つ。 一直線上に標的に向かって進む。来訪者は右へ移動する。左には、机がある。 矢は壁に突き刺さった。珀露は右手を後ろに振り、そのまま遠心力をつけ、前に振る。 長すぎる袖が、壁にぶつかり、鈍い音を立てる。 そこに、来訪者の姿はない。 三人で、お茶を飲むのなら十分な広さがある地下室だが、戦うには狭すぎる。 珀露は思うように動けない。 戯遊は珀露の動きを見極めながら、珀露に矢が当たらないようにしながら、次々と新しい矢を放つ。 「あぁ、でかいもん振り回す癖に、すばしっこい野郎がっ」 忌々しそうに戯遊は吐き捨てながらも、攻撃の手は休めない。 「唯、暮らしていければそれでよかったんだ。それを壊したのは、紛れもなくお前らだ」 「策略にはまる方が悪いっていわない?」 「そうだな、それも一理あるが。天にも地にもかけがえのない存在をお前らは、陥れたんだ。消えさってもらうよ」 「ばっかみたい、だよねぇ。本当に、どいつもこいつも、大切な人がいないと生きていけないだなんて、下らない! それしか求められないなんて下らない」 戯遊の矢を打つ早さがあがる。 「下らない下らない! 下らねぇんだよ!」 苛立たしげに下らないを繰り返す。 それに合わせて、珀露の動きも相変わらずの破壊力を伴いながら、動きが俊敏になる。 「どんなに、大切な存在だろうと、人は何れ死ぬ、それこそ裏切られたと思えるだけだろ!?」 戯遊の矢が光を纏い――放つ。 今までとは比べものにならない威力が、壁を破壊する。 来訪者は、その軌跡を一瞬だけ確認する。 「何を、馬鹿な事をいっているんだよ」 冷笑する。 「何を?」 怪訝する。 「そんときはな――」 その応えは、聞こえない。 [*前] | [次#] TOP |