U 暴動が一段落した頃合い。榴華と柚霧が共にその場に現れた。 罪人が柚霧に襲いかからないように、榴華が隣に寄り添う。一見すると恋人同士にしか見えない関係だが、実際には幼馴染であり恋人同士ではない。 「お主……この騒動を知らぬとはゆわせぬ。何処に行っておった?」 有無を言わさない雛罌粟の声色。 「知っていたけどねぇん。こっちもこっちで大変やったんやから」 それにと続ける。 「第一の街支配者が出張ったところで意味はないと思うやで? 此処はヒナちゃんが収める街であり、支配者である街。力でしか支配者になれん自分と、ヒナちゃんは違うで」 「……わかった」 口論するつもりは元々雛罌粟にはない。大人しく退く。これ以上文句をつける意味がないと、榴華の言葉全てを間に受けるわけではないが、榴華の力がなくとも暴動が治まったのもまた事実。 柚霧が申し訳なさそうな表情をしているのに雛罌粟は気がつき、つくづくこの牢獄には似合わぬ少女だと心の中で優しく微笑む。 「柚、お主が気にすることはない」 今日は色々あって体力を消耗した、帰宅したら休もう。 +++ 戯遊と珀露は道中寄り道をすることなく、真っ直ぐ自宅に戻る。戯遊は気だるそうに珀露に話しかける。 「本当に全く甘いわよねぇ」 両手を後ろに回し後頭部に当てながら、自宅の密かに作ってある地下に進む。 「あーあ、此処が罪人の牢獄であることを忘れちゃっていないかしら。一つ火だねを落とせば、それは脆く崩れ去るものなのにね。まぁ最もそんな事は此処に限ったことではないのでしょうけど」 珀露は戯遊の後ろに続きながら、戯遊の言葉を聞き流す。 「全く持って下らないわ。仕事が終わったらお酒で一杯やりたいわねぇ」 珀露が静かに頷く。珀露はお酒が大好きだった、それこそ戯遊は酔っぱらった事をみた事がない。一緒に飲むと最初にダウンするのは何時も戯遊だ。 「もーと頑張るかと思ったのに白き断罪も退いちゃったし」 階段を降り、地下室に辿り着くとそこは家の面積の三倍はあろう広さを誇っていた。 恐らくは隣人の家まで浸食している。雛罌粟も知らないだろう戯遊の秘密の地下室。最も情報屋の泉ならお見通しなのだろうが。 「私のやることもなくなっちゃいそうよ。全くどうしようかしらぁ……はく……?」 自分の後ろにいた珀露が何かに反応し、戯遊の後ろまで飛び跳ねる。鮮やかな動きに戯遊が何事かと目を見開く。 「はく……?」 「ダマレ」 耳を澄ませば、足音が聞こえる。カツンカツンと一歩一歩此方へ近づいてくる足音。 珀露は身体をかがめ、戯遊は壁にかけてある弓と弓筒を装備する。 「せっかくお酒で一杯やろうかと思ったのに無粋な邪魔をしてくれるのね」 足音をはっきりと耳で聞いた戯遊は口を開く。忌々しそうに。 「さて、誰かしら」 階段を降り切ったところで足音は止まり。その人物が誰か判明する。淡いランプによって照らされた薄暗い地下室の中でもその姿は見間違えない。手に握られるのは鎌。 「貴方は……」 「政府の犬よ、今晩は」 鎌を戯遊の方に向ける。 「裏切りではなく、背信でもなかったのね信誓しているのね」 「あたり前だろう?」 「そう、では私も私の主の為に貴方を殺す。本当は貴方の力は役立つから、殺したくはないのだけど」 戯遊は静かに弓を構える。突然の来訪者にして、標的を。 珀露も戯遊の隣に並ぶ。 [*前] | [次#] TOP |