零の旋律 | ナノ

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「なんで、此処に俺たちを連れてきたんだ」
「君は何れ知ることになる場所だからだよ」

 ――そう、何れ王位を継ぎ、王となる君に

「お前にとって俺は……」

 俺が王位継承者だから特別扱いをしていたんだな? そういいかけて言葉が出てこない。
 どんな形であれ、朔夜が此処まで生き残れたのは銀髪がいたから。
 両親亡き後、否両親が存命している頃から、銀髪がいなければ昔に死んでいた。生まれることすらなかった。今生きていられるのは銀髪がいるから。

「まぁ……」

 朔夜の言いたい言葉を理解した銀髪は、朔夜の頭を撫でるように手を置き言葉を続ける。

「君の両親の手助けをしたのは、両親が“それ”だからだがな……。それに朔夜は俺が面倒を見ていた、ようなもんだし、ね。君はまた別さ」

 それは――朔夜が王族の子だから、という意味以外も含まれた言葉だろうか。
 ――そう願いたい。
 物語を動かす為の駒としか他人を見ない男の、自分は別でありたいと願う。
 王族だからという理由ではなくて――。

「それに、朔夜が気にしてどうするんだ。朔夜は自由にしなよ。俺に着いていくか、それをやめるか」

 ――そして、最後には戻ってきてくれることを願うよ

「あ……あぁ」

 曖昧に答える。


 時の流れが止まったかのような空間、色とりどりの花々。
 淵泉から流れる水の音。
 雛罌粟は辺りを散策した後、口を開く。彼らの会話が終わったころ合いを見計らって。

「此処は何度見ようが圧巻で言葉を忘れるようじゃの」
「そうだね、俺もそれには同意だ」
「此処に、梓は連れてきた事があるのか?」
「あるよ。あの、梓がどんな反応をするのか気になったからね」
「そうか」

 その時、梓がどう反応したのか興味はない。ただ、ふと疑問に思っただけだ。
 雛罌粟から見れば、梓は榴華や水波とは違うたちいちにいるような気がしていたから。

「榴華や水波は」
「ないよ」

 試しに質問すれば、あっさりとないと銀髪は告げる。
 二人だけ訪れた事がないと知れば、榴華はおどけて傷ついた振りをするだろう。水波はにこやかに笑いながら僅かにショックを受けるかもしれない。

「そうか」
「此処は最期の楽園だしね――ねぇ雛罌粟」

 銀髪が、くるりと一回転すれば、宙に華が舞う。
 自然あふれた、腐敗した大地とは別物。聖域の空気は澄んでいた。

「なんじゃ?」
「いや、なんでもない。――戻ろうか」

 此処に彼彼女らを連れてきたのは、こんな場所が存在するのだよと教える為。
 目的を達成する時に有利に事を運ぶための一手。

「俺は暫く最果ての街に用がある」

 そう言い残して泉は途中で姿を消す。どんな目的があるのかは誰も知らない、誰にも告げない。
 銀髪は最期の楽園の入り口まで篝火たちを見送った所で、その場に残った。




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