零の旋律 | ナノ

V


 銀色の輝きに追われ
 闇に身を沈めた
 そうして、得た仮初の安堵

「……そういやって、何でお前は他人を拒絶していく?」

 殆ど此処に来てから一言も口をきいていない篝火が、ようやっと口を開いた。
 その声に、批難は混じっていない。

「簡単だ。関わり合うつもりはないし慣れ合うつもりもない。唯それだけだ」
「なんで、そんなに他人を信用しないんだ」

 二年間の付き合いがあったとしても――誰も信用しようはしない
 壁を作り、拒絶する。踏みこませない。

「……人を信用したら、殺されるからだ」
「どういう……」
「信用したら、首根っこ掴まれて殺される。夜を満足に眠ることもできず、他人を疑い、自らの情報のみを信じて生きていくことだけが、生きていくすべ、だからだよ」

 他人を信じたら裏切られるだけ
 信じていいのは、郁と律だけ。
 他は信じられない、信じて殺されるのなら――心の中までは踏み込ませない。

「どうし……」

 最後まで、言葉が続かない。
 泉の言葉が心からの真実だと理解出来てしまうから言葉が出ない。
 真実でなければ、どうして泉は、そんなに穏やかな表情をしているのか。
 怒りでも、悲しみでもなく、唯穏やかに。普段の泉らしくない表情。

「これ以上は、話すつもりはない」

 結局、踏みこもうとしても、泉が拒絶して終わる。
 ――近づくことはできないのだろうか

「なんで兄貴が此処にきたんだ?」

 別段、夜だから泉が起床していることに不思議はない。この場所に自分らがいることを知っていることも、情報屋である泉だから不思議ではない。
 不思議なのは態々訪れた、ということだ。
 何も言えなくなった、篝火と斎の代わりに郁が口を開く。
 泉の溝を埋めた、一人である郁が。

「そりゃあ、郁にききたいことが、いや、銀色に聞きたいことがあるからか」
「断るよ、どうせ君が聞きたいことなんてわかっているんだ、それに態々分かっていることを確認しにくること自体が、野暮なんじゃないのかな。九十九%の確証を得ていながら、残り一%不明だからといって確証を得に回る必要はないだろう」
「……あいつは、やはりここにきているか」

 怪しく微笑む。その微笑みにはどんな意味があるのか、郁に悪寒が走る。
 そして、心の中で頑張れと呟く。
 今は傍にいない、泉の親友に向けて。

「残り一%の可能性が限りなく零だと知っていながら悪あがきをするんだね、君も」
「……例え九十九%の確証を得ていようとも、俺の情報元が破壊された時点で百%の確証は得られない。俺の情報元を知っている奴なんてそれこそ限られているが、推測の域は出ないだけだ」
「ご愁傷様、大切な僕が壊されると大変だねぇ」

 嫌みを立て続けにいう銀髪だったが、泉は気にも留めない。

「それにしても此処は……異世界に来たような現実味のない空間だな」

 一通り見まわし“初めてみた”その場所に対する率直な感想を告げる。

「そりゃあ、最後の楽園でもあるからね。人は、この楽園を自らの手で失墜させたんだ」

 銀髪の表情に怒りが現れる。それは純粋なる怒り。
 楽園を穢した人への憎しみ。


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