零の旋律 | ナノ

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「一体此処は何なんだ?」

 暫くの間、景色に酔いしれやっとの思いで郁が口を開く。幻想的なこの空間は見る者を惑わし酔わす。

「罪人の牢獄はね、本来地下にあるのではなく地上に存在している場所」

 質問に答えるのは勿論――銀髪

「どういうことだ?」

 理解出来ない、といった風に顔を顰める。

「罪人の牢獄は消された歴史に置いて嘗て人々が住んでいた大地。嘗て人類が生活をしていたこの土地は住めない死の大地と化した。住む場所を無くした人間は、地上の上に新たなる大地を作りだすことにしたんだよ。疑問に思わなかったかい? 少しでも。罪人を落とす為の牢獄がこんなにも広大である必要性に」

 罪人の牢獄には最初の街と呼ばれる三つの街、最果ての街の計四つの街が存在している。それに合わせ腐敗した大地、砂とかした場所、崩れ住めなくなった廃墟が存在する。雄大な面積を持っている――総面積がどれほどあるのかわからない程に。
 意図して政府がこの牢獄を造ったのなら、それは一体何の目的の為。牢獄と称し罪人を落とし殺すだけなら広大な場所を造る必要性は何処にもない。それだけの年数と労力を使うことすら無意味だ。
 相手は罪を犯した人。広い空間に収容することはない。
 些細な違和感を覚えたとしても、疑問とまで思うことはなかった。
 疑問として、何故として考えることもしなかった。
 ただ、語られる事実に唖然とするばかり。

「……」

 何も言わない。否、何も言えない。

「此処は牢獄として、牢獄の目的として造られた場所じゃないんだ。此処は人間に捨てられた大地。人が自らの手で穢し、そして見捨ていた。……この場所はね、この世界で唯一生き残った自然。此処は最期の聖域。奈落に落された場所で生き続ける奇跡」

 罪人の牢獄にこのような場所がある等、誰も想像しないだろう。
 此処は腐った大地、腐敗した場所、死の奈落。
 自然は育たず、一歩街から踏み出せば砂の毒が舞う。
 血の匂いを漂わせ、血に手を染め、生き、死にいくだけの場所。
 政府が罪人を見捨てた場所。

 ――それだけのはずだった、それだけのはずなのに
 ――どうして、どうしてこんな場所が残っている。


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