零の旋律 | ナノ

V


『ただ、ありがとう。失敗作の僕を見つけてくれて』

 失い、求め、消えて

 ――何かが壊れたときに、僕は失敗作だと悟った。

 政府が作り出した兵器。ただの人形。人間にはなれない。
 政府は自らの都合のいいように動く駒を欲した。感情など存在しなくて、政府の言うことだけを完璧にきき、変えがきく便利な存在を。
 それが人形。一見すると人間にしかみえないそれを、政府は長い研究の末に作り出した。
 政府の重要機密事項の一つ。しかし、その過程でいくつかの失敗作が生まれた。
 不完全にしか、人形としての機能を果たさない人形。
 そして、政府の命令だけをきくためには不必要とされた感情を持って生まれた人形。
 それらは、失敗作とされた。政府にとって意味のない人形。ただの存在する必要もないものとされた。
 狗憑想思は、どちらの要素も持っていた。
 だから、ただ捨てられるだけだった。生まれた意味を必要とされないままに。
 しかし、そこで手を差し伸べた一つの存在がいた。同じ人形にして、ある意味完璧な成功作とも呼べる存在。ただ、政府の命令を忠実に遂行するだけだと思っていた成功作が、ある日突然反乱を起こした。
 狗憑想思は、その時その成功作に助けられ、研究所を離れた。

「大丈夫?」
「……なんで、助けた?」
「それは、政府が嫌いだからよ。身勝手な理由で人形を作った政府が、ただ……それだけ」

 感情を持たないはずの成功作には、実は感情があった。狗憑想思は、その時それを知った。
 そして、それが完全なる成功作でもあるということに気がついた。

「あなたの名前は?」
「狗憑想思(こまより そうし)」
「私は、唯乃沙羅(ゆいの さら)」

 そうして、感情を持った人形は研究所からいなくなった。

 その後、狗憑想思は、白圭と出会う。自らが生きる存在意義を求めていた、その時に。
 二人目の救いの手を差し伸べてくれた存在だった。
 政府は、憎む相手だった。でも、白き断罪第二部隊は好きだった。だから、想思は白圭についていくことに決めた。
 烙、由蘭、砌、夢華、舞、律、焔。個性豊かな面々との日々は楽しかった。
 だから、想思はありがとうと告げる。

 存在することが出来たから。
 ――零れる涙を救い上げてくれた。



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