U 「でも……僕はもし大切な人と戦うことになったらきっと――」 「調子はどうだ?」 夢華の言葉は続かなかったし、聞けなかった。自室の扉が開く音と自分を気遣う言葉で遮られた。 烙は気がつかなかった。他の仲間が戻って来ていた事に。夢華は気がついていた、気がついたうえで何もいわなかった。白圭たちはぞろぞろと烙の決して広くない部屋に入ってくる。 移動するのが困難になりそうなほど狭くなった。烙はそこでようやっとベッドから身体を起こしベッドの上に座る。 「おか……えり?」 「あれ……?」 何かが足りない、欠けた。誰がなんて明白過ぎるのに信じたくない現実を認めたくない思いが、それを認識させない。 「想思は……」 最後まで言おうとして、口が止まる。最後の一言がどうしても口から出てこない。 自責の念にかられる。罪人を舐めるような真似はしないと言っておきながら心の何処かで自分はまだ舐めていたのじゃないかと、自分がもっとしっかりしていたら想思の犠牲は出なかったのではないか、後から後から波のように押し寄せてくる後悔に白圭は唇を噛みしめる。 『有難う』 そう最後に呟いた想思の言葉が胸にのしかかる。 初めて出会った時、白圭は想思を放っておくことが出来なかった。寂しくても笑おうとする瞳に、ただ壊れた機会のように彷徨っている想思を白圭は白き断罪へ誘った。少しでも想思の微笑みが見たくて。 白き断罪が平和ではない、戦う場所だとしても――断られるか? と最初は思った。しかし自分が差し伸ばした手を想思は純粋なる笑顔で嬉しがった。誰にも必要とされなかった人形が、初めて誰かに必要とされている――その事が想思の気持ちを高ぶらせた。 嬉しかった。自分が生きていていいんだと、その存在を認められた気がして。 存在意義を求めていた想思に白圭は何かを与える事が出来ただろうかと考える。 どんなに後悔したとしても、想思は戻ってこないのに―― それでも、考えられずにはいられない。 感覚で物事を判断する夢華は気付く。 夢華だけでなく、絡も歯切れが悪い白圭の言葉で気づかないほど鈍くはない。 「そう、でもね、白圭」 夢華は目を細める。しかし、睨んでいるわけではない、その瞳は何処までも慈愛に満ちている。 「想思は白圭によって心から救われたんだよ。だから、僕らがやることは想思の命を、願いを無駄にしないことだよ、ね?」 どこが、そういいたかった。 嘘も偽りも虚偽も強がりも本当も真実も事実も夢華の前では意味をなさない。 夢華は感じるから人の心を感覚で読み取るから。それがどういった芸当なのか理解は出来ない。 それでも、その読みはいつも的確だった。恐ろしい程に。 「自らのしたことに、後悔は大切だよ、でも、どんなに後悔しても失ったものは戻っては来ない」 ――そんなの、人を納得させようとする言葉だとしても、それでも、ないよりはましだよね? 夢華は白圭から視線をずらさない。 「お帰り、みんな」 それは、仲間だからか それとも―― 夢華の言葉をただ、静かに観察している者がいた。 [*前] | [次#] TOP |