第弐話:深紅の宝玉 律の姿が完全に見えなくなった後、未だに立ち上がれないでいる朔夜に銀髪は手を差し伸べる。 「大丈夫か?」 「あぁ」 朔夜が銀髪の手を借りて起き上がる。 煉瓦で出来ている第二の街の御蔭で、地面に伏していても、そこまでの汚れはなかった。 「なら、よかった」 罪人の牢獄支配者は、決して善人ではない。 他者を駒として扱い、自分が物語を有利に進めるために使い捨てる。 そんな銀髪が、よかったと言葉を掛ける。 その意味は―― 朔夜の元へ篝火、斎、郁が駆け寄る。 「本当に朔は王族なの?」 深紅の宝玉と言われても、律と銀髪の言葉があっても半信半疑が抜けない斎は直接本人に問う。 「あぁ、一応。だけど……」 朔夜は寂しげな表情になる。今まで黙っていたのには訳がある。 「俺が王族の人間だって知っても、何も……変らない……よな?」 王族だとばれるのが怖かったから。篝火たちが自分の出生を知っても嫌ったりすることはないと思っていた。けれど、嫌われることはなくとも距離を置かれることはあるのではないかと恐れていた。 何処か王族だからと、他人行儀な扱いに代わるんじゃないかと。 例え駆け落ちした両親から生まれた子だろうと、王族の血を引くのには変わりない。 王族だから、貴族だから、そう言った理由で他人行儀扱いだけはされたくなかった。 今まで通り何も変わらずに接してほしいから。此処にいるのは王族の朔夜ではなく、ただの朔夜だから。 今までの楽しい日々を、罪人の牢獄しかしらない、朔夜にとっての、生きていく日々を失いたくないから。だから――黙っていた。 「さ……」 朔夜が王族だと確信してしまった斎は唖然として何も言えない。何か言葉にしようとしても、スムーズに言葉が出ない。 「何を下らない事を言っているんだ。お前はお前だろ。他の誰かが態度を変えた処で私はお前を王子様扱いするつもりは毛頭ない」 断言したのは郁だった。朔夜の心配ごとを一気に吹き飛ばしてしまうほど清々しい断言。 朔夜の表情が和らぐ。 「それに、お前だって私がもしも貴族とかだったとしても態度を変えたりはしないだろ?」 「はっ、そりゃあそうだ」 「ならば同じじゃないか」 何のための不安か。 「そうだねぇ、接近戦が全くできない遠距離しか能がない朔には変わりないっか」 斎も同意する。 「郁や斎と俺も同意見だ。というか今さら他人行儀なんか出来るかよ」 斎の後に篝火も続く。 朔夜の漠然と抱いていた不安は自然と消えていく。 三人が認めてくれた。自分の存在を このままでいいと、変わらないでいてくれると、認めてくれた。 だから安心できる。 心から笑える。 ――有難う。出会ってくれて、いつも一緒にいてくれて 下らない口喧嘩をして、武力行使に発展しようとしたり 腹を抱えて笑いあえて そんな“仲間”がいてくれて、有難う [*前] | [次#] TOP |