Z 「まて、第一王位継承者とは?」 篝火が次いで質問する。 「朔夜の両親は、十年くらい前に亡くなっている。つまり、今王族の血を引くのは現王か、その孫にあたる朔夜だけ。そうなると必然的に朔夜は王位継承者ってわけ、だから」 律の顔の横を、銀髪のサーベルがよぎる。 髪の毛が僅か数本、宙を舞う。 「それ以上の、お喋りは、大切な“主”が困るんじゃないのか?」 「これくらいのお喋り問題ないだろう? 問題あるのは銀色の方だろ。まぁ最も主がやってこられたら困るけどな」 サーベルはなおも律の首筋にあるが、全く動じない。 「銀色なら、ご存じだろうけど、誰もが彼もが白圭と同じように復讐者となったか、目的がありこの地へ覚悟の上でやってきている。それを愚弄したところで、彼らの意思は動かないだろう」 「なら、何故君は白き断罪へと踏み入れた?」 「目的を達成する為には、俺は何だって利用するよ」 そのために、白き断罪に入った、それだけ。 律は斎の方へ視線を移す。 「何?」 腹部に手を当て、片膝をつきながらも斎は律の方を見る。戦闘によって包帯から滲み出た血が手を赤く染める。 「大切な存在がいなくなったら、裏切りと喪失の中で……それでも心はお前を信じたくて烙はこの地へ足を踏み入れた。再会を望みたくなくて、もう一目会いたくて矛盾した心にさいなまれながらもな。例えお前が烙の為を思い、烙を守りたくて彼らを殺害したとしても、烙にとって本当にしてもらいたかったのは、ずっと傍にいてくれる親友だったんじゃないのか」 「……」 斎は何も言わない。言えない。 「何故白き断罪の仲間を殺したのか。何故勝手に自分の前からいなくなったのか、斎が口を噤んでいた“理由”に烙は気がつき始めた。だからこそこの場に足を運べないんだと思うよ。斎と顔を合わせたら感情に先走って何を仕出かすかわからないから。まぁ俺を嫌っているからってのもあるんだろうけど」 烙が何故この場にいないのか、考えれば簡単に判明したものの、最初は余裕がなくて別のことを考えていた。 「……嫌っているとは?」 「守る為に動いた存在と、守られた存在。対極だから、相容れない。それだけだ」 誰を、守り、誰のために生きる。 「はぁ、だから厄介なんだよ。君が行動する全ては“主”の為だろ」 「いいや、俺は“俺”の為にだ」 首筋からサーベルを離すことはしないが、それでも攻撃に移ることはない。所詮避けられるのがオチだろうと考えているから。だからといって、サーベルを手元に戻すこともしない。 「俺の為であっても、全ては主がいるからだろうに」 「あぁ、俺が唯一、この世界でただ一人忠誠を誓った大切な存在。騎士はその為に生きる」 「本当に、君も彼も、彼らも僕の仲間ならこの上なくやりやすかっただろうに。こんなにも馬鹿しかいないと困るよ」 「あぁ、馬鹿さ。広い世界を見ることが出来ない。狭い世界の中でしか、生きられない。大切な存在する世界でしか生きる事が出来ないな」 「だったら、君も早く帰った方がいいよ。あまり長居をすると“主”が君の元へやってくるよ。まぁ君が本気で俺らを相手にするってなら此処は君にとって最もいい場所なんだろうけど」 銀髪はサーベルを手元に戻す。 「数多の亡霊が渦巻くか。くれぐれも俺のことは内緒で」 その言葉を最後に、背を向けて律は歩き出す。はたして最後の言葉は誰に向けての言葉だったのだろう。 「……すでに狂っている人にとって、それは……」 その言葉は誰の言葉か。 [*前] | [次#] TOP |