Y 「あぁ、私が連れてきた、仲間だ」 「じゃあ、その仲間ともども死ぬか。まだ生きながらえながら、退くか、選択を挙げるよ」 どちらを選ぶかなど最初から決まっている――天平にかけられたのならば。 「……」 白圭は僅かな思案をする。 「ならば一つ確認させろ」 「何……つっ!?」 最後まで聞くことなく、白圭はその大剣で、銀髪を容赦なく切る。 避けることができず、否しなくても 銀髪は胴体を斜めに斬られる。 血飛沫があがる。 しかし 「いきなり殺そうとするだなんて、失礼だな」 直あとにあったのは、血の返り血がまったくない、服も無傷、斬られた跡も何もない 切られる前と全く違いのない銀髪だった。 「噂は本当なのか……な」 「噂ねぇ、その噂は本当に根も葉もない噂なのかね」 「……? だが、簡単には貴様は殺せないのだな」 「簡単以前の問題だよ」 「退くぞ」 白圭は敵に背を向け歩き出す。 引けと言われた以上、そして退くと決めた以上、罪人たちが襲いかかることがないと確信したから。 「ちょ、いいん?」 普段の口調に戻った榴華が、突然現れた銀髪に問う。 「もうちょいしていたら、倒せちゃんちゃう? 人数も自分らのほうが多いし」 「だろうね、だけどやることがあるから――なぁ?」 その視線の先は榴華ではない。 白き断罪は白圭の後に続いて姿を消していく。決して後ろを振り返らずに唯一名を除いて―― 「やはり“銀色”にとってはその餓鬼は貴重か?」 律は他の仲間が視界から消えたことを確認してから口を開く。銀髪も最初から律がこの場に残ると予想していたようだった。口元には僅かに歪んだ笑み。 「なんや、自分まだ残っていたん?」 素直に引き下がっていない律に、戦闘態勢になる榴華だが、それを銀髪が手で制す。 戦うな、ということ。 「やっぱり君らは俺を銀髪とは呼ばず“銀色”と呼ぶんだな」 「泉もカイヤも、汐もそうだろ?」 「それだけじゃないけど、君らは皆、俺の存在を知っているから厄介だ」 元々、知り合いだったのか――会話を続ける。 誰も口を挟まない。挟ませてくれない雰囲気が二人の間にはある。 「厄介な、まぁお前にとって俺らは厄介であるしかないか」 「君も泉君も、あの二人も他の面々もね」 「……郁、教えてあげる」 「何をだ?」 律が郁の方に、郁が感じている疑問の答えを言う。 「朔夜が罪人の牢獄にいるのにその証がないのは簡単なんだ」 「簡単だと?」 「そう。此処で生まれ育ったから、罪人のである証が存在しない」 「な、なんだと!?」 「朔夜の両親は……駆け落ちしたけど、国内に安全な場所などなかった。いつ追手がきて自分たちを連れ戻すかわかったものじゃない、安寧で幸せな生活なんて送れない。そんな時手を伸ばしたのがそこにいる銀色」 「……」 「銀色は政府が見捨てた地である罪人の牢獄に二人を連れてきた。勿論物騒極まりない場所だけど、役人や追手を気にする必要はないし、銀色が全面的に支援した結果。二人の周りは二人が駆け落ちして初めて安全にそして幸せに暮らせる場所だったんだ。そこで生まれたのが朔夜。第一王位継承者ってことだ」 告げられた真実が大きすぎて 理解しようとする頭と理解したくない心が反発し合う。 どれだけの目まぐるしい出来事がいま、起きているのだろう。 [*前] | [次#] TOP |