X 「初めまして、と言った方がいいかな? とりあえず白き断罪の皆さんはもう充分暴れたでしょ? 此処らで一旦退いてくれると有難いんだけど」 一歩前に出る。まるで朔夜を庇うように――これ以上手出しされないように。 「罪人の支配者が、態々現れるということは、やはりその餓鬼は本物の王族か」 白圭も一歩前にでる。 「そんなこと今はどうでもいいでしょ? 俺が今は見逃すから此処からいなくなって欲しいといっているのがわからないかな」 何時もと何処か口調が違う。 しかし、そんな言葉だけで引き下がる程甘い覚悟をして、此処に来たわけではない。 此処で引き下がれば、想思の死は犠牲は何だというのか―― 「こちらは一人死んでしまった、私の力不足だ、だが、だからこそ引くわけにはいかない。それにその餓鬼が王族なら、私らが連れていく」 大剣を銀髪のもとへ向ける。銀髪は微動だにしない。 「人形が死んだから、なんだっていうのか」 「貴様!?」 「で、今なら他に死者を出すことなく、ひきさがらせてあげると言っているだけど」 なおも冷たい視線を向ける。 「貴様ら罪を犯した人が、悲しみを人に呼ぶ」 「人を殺した白き断罪が、血に染まった断罪者が何をいうかね。本当に、ここの牢獄を滅ぼしたくらいで、癖った政府が更正するとでも思っているのか?」 「何も変わらないとは、思っていない」 「けれど――それは副産物なんじゃないのか、本当の目的を隠すための都合のいい隠れ蓑にしか俺には思えないけど」 罪人の支配者の言葉に、白圭は黙る。その通りだった。けれど全て隠れ蓑なのではない。 「誰もが、人は狂気となり得る。愛する人を、殺されれば、あの子らが何をした。罪人は身勝手に、唯の殺人願望を満たすために、闘う術のない人を殺した。なのに、何故、法の元裁かれない」 大剣を掲げ、真っ直ぐに罪人の支配者へ向ける。 「人は、人は誰しもが愛する人を失ったら狂人へとなりうる可能性を秘めているのだ!」 生きていれば、平和に暮らせたかもしれないのに。 愛するわが子の成長を見守りながら、妻と一緒に。 なのに、そのわが子は何処にもいない、何処を探しても愛する妻はいない。 どれだけ、探しまわっても、いない。 もう、会うことが出来ない。 離れたら戻ってこない。 「罪人の牢獄があるから、政府は腐敗していく一方。ならば、私のようなものをこれ以上増やさないためには、何をすればいい? 簡単だ。ここを滅ぼせばいい。そのためなら、私は唯の復讐者でも構わない」 もう、二度と同じ地位に戻れなくてもいい。 すべては、あの日失った。 妻を、わが子を、殺人犯に殺された日に。 喪失感、怒り、悲しみ、絶望、自己嫌悪が襲う。 なのに、あの罪人は裁かれることなく、罪人の牢獄へ捨てられた。それだけだった。 法は何のために存在している。 ただ、そこへ捨てるだけなら、存在する価値などあるのだろうか。 「そのために、部下を道連れにしたか。大した利己だな」 悲痛な叫びすら、決意の覚悟すらも、罪人の支配者は嘲笑い切り捨てる。 [*前] | [次#] TOP |