零の旋律 | ナノ

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「ならば、お望みどおり返してやる」

 篝火を朔夜達のもとへ力強く投げる。

「うわっ……!」

 首筋には掴まれていた後が痣となり残る。圧迫感が消える、かはっと息を吐き出し新鮮な空気を吸う。
 今の斎では篝火を受け取ることが出来ないし、出来たとしても斎の怪我が悪化する。
 郁の腕力的にも無理。何より朔夜には到底篝火を受け止めることは出来ない。
 篝火はそうなると受け身も取れず激突するだけ――しかし、朔夜の周りに現れた光が篝火を包み込み、落下速度を和らげゆっくりと地面に下ろす。攻撃だけではない光。

「(あれは――)砌!」

 白圭が叫ぶ、最初から名前を叫ばれる事を承知していたように、叫ばれたと同時に砌は動きだす。誰も近寄れないように左右にメイスを振り回す。郁と斎、そして篝火は避けるように左右に移動したが、朔夜では対応が追い付かなかった。

「しまっ――朔!」

 篝火が叫ぶが間に合わない。朔夜はメイスの攻撃をもろに食らう。
 しかし、敵であるはずの自分への攻撃が手加減されていたのか――骨が折れることはなかった。衝撃で前のめりになったところを、砌は足で背中を押さえつけ地面に倒す。

「ぐえっ」
「抑えたわよ、白圭」

 雛罌粟と先ほどまで戦っていたとは思えない程涼しげな顔で砌は右手で髪の毛を靡かせる。

「さて、坊やには気になることがあるのよね。あぁ、君ら動いたらこの子殺しちゃうから宜しく」

 誰も近づいてこられないように念を押す。
 支配者たちは関係なく襲ってくる可能性もあったが、その素振りは誰も見せない。武器を構えて様子を伺っているだけ
 砌の武器はメイスとでかい。殺そうとした瞬間の隙を狙って攻撃しようと企んでいるのだろう。
 だが、砌には朔夜を殺すつもりはなかった。確認したいことがあるだけ。
 朔夜のワイシャツに手をかけ、そのまま背中が見えるように遠慮なくワイシャツを破った。

「っておいっ何をする!?」
「黙って」

 砌は朔夜の背中を肘で攻撃する。

「いだっ……!」

 痛みで朔夜は黙る。

「貴方は何者? いえ、愚問ね」

 背中は普段露出している肌の部分同様に色白。傷一つない綺麗な身体だった。そこには――何もない。

「貴方は罪人ではないのね」

 砌の一言に他の者は黙る。見えている。綺麗な“傷一つない”身体が。
 背中の左腰部分には何もなかった。本来罪人全員に共通するはずの罪人の証が、烙印がなかった。
 それが意味することは唯一つ。罪人ではないということ。


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