第壱話:消えゆく紅の翼 『有難う』 繰り返すその想い 繰り返すその言葉 繰り返す記憶 「想思!?」 姿が消えていく、透明になっていくように 透き通って ガラス細工のように砕けちるように 存在自体を抹消するように 何もなく 何も残らないでいく。 触れていた頬の温もりも無機質へ変わり、 触れていた頬を手が透き通る 何も残さずに全てが消えていく そこに存在していたことが嘘のように 跡形もなく 白圭の叫び声に返事をする口もなく 「……」 篝火は手を下ろし、自分の拳を握りしめる。この気持ちはなんだ、どうしようもない虚無感が篝火を津襲う。喪失感が篝火を覆う。 相手は敵なのに、何故こんなに――後味が悪い。 「想思様!?」 「想思っ……」 「ウソだろ……」 それぞれが、それぞれ思い思いの言葉を紡ぐ。 白き断罪の攻撃の手が止まる。 しかし、罪人は攻撃できなかった。 否、正確には一部の者はその隙を逃さずに、攻撃しようとした。 だが、それは白圭の行動によって止まったにすぎない。 敵が一人いなくなったとしても、敵である以上、容赦をするつもりなどないから。 「ぐっあ……」 長身で、しっかりとした体躯の動きとは思えない俊敏な動きで喪失感を感じていた篝火に一瞬の判断すら与えることなく首根っこを掴む。そのまま篝火を後ろの壁に叩きつける。その衝撃で壁の一部が崩れ 、篝火の口からは血が流れる。反動で身体が前後に揺れる―― 「篝火!?」 すぐさま反応したのは郁だった。郁は白圭に斬りかかるが、背後からの攻撃にも関わらず最初から見えているように白圭は開いているもう片方の手で、郁の右手首を掴む。 「ぐっ……」 力強く掴まれたことにより、郁は顔をしかめる。生暖かいものが、にじむ。 白圭は無言のまま、郁を捻るように手くびを掴んだまま、一回転させ地面に叩きつける。 一瞬の出来事に、暫くの間罪人たちは呆然とする。 [*前] | [次#] TOP |