零の旋律 | ナノ

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 ――君がいたから僕は、存在を肯定された気がしたんだ

『有難う、さようなら』

「あっ……」

 欠けた、歯車が。
 徐々に壊れるのは決まっていた
 長くないことを悟っていた。
 それでも、それでも――

 想思の動きが一瞬、鈍くなる。篝火はその一瞬を見逃さない。
 一気に間合いを詰めて、地面に叩きつけるように、背後から背中を殴りつけた。
 想思はその威力を相殺できないまま、地面に倒れる。
 ――動けない

「……」
「……君の、勝ちだね」

 地面から起きあがって座る。篝火は止めないし、それ以上攻撃を加えようとはしない。
 座る姿は何処か不自然で、今にも横に倒れていきそう。

「あぁ、本当に、僕は何処にいても役立たずなんだねぇ」
「……それは違うだろ」
「ううん、僕は結局欠陥。不良品。役立たずな落ちこぼれさ」
「自虐的過ぎるだろうが」
「だって、だって」

 想思の言葉は止まる。

「……?」
「だって、僕は、僕の願いは何も成就することなく、砕け散ったんだもの。結局僕は誰の役にも立てない」
「……生まれながらの長老はなし」
「何?」
「最初っから優れた人間なんていないって意味だよ」
「僕は人間じゃないよ、人形だよ」
「そんなこと関係ない」
「有難う、もし出会えるならもっと早くに出会いたかったな、敵じゃなくて」

 歯車が合わない。
 壊れる
 崩壊
 崩落
 崩れおちる

「まだ……生きているだろう」
「もうじき死ぬ、君の戦いでしょ」

 たたかって負けた、敗者。

「……埋葬くらいはしてやるよ」

 ――それくらいの、情けは掛けてもいいよな?

「必要ないよ。僕消える」
「消えるって……」
「僕ら人形は、その存在を暴かれないために、公にされないために、秘密を知られないために、命つきるとき、その肉体は残らないで消滅する」
「お前……」

 その微笑む顔は、どれだけの世界の理不尽を肌で感じたのだろう
 それでも、最期まで何故笑えるのだろう。
 篝火は、想思の顔に手を近づける。
 頬に触れる。
 温かみが、肌の感触が手を伝わってくる。
 ――生きている

「さようなら、罪人さん」

 最期に振り向くのは

「ごめんね、白圭」

 自分の存在意義を与えてくれた相手


『今まで有難う』


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