零の旋律 | ナノ

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 メイスは振り回される。技も術も使っている様子はない。純粋なメイスと砌の力による圧倒的な破壊力。一撃一撃が脅威となる。

「やっかいだなぁ」

 蘭舞と凛舞の二人は舞の相手に付きっきりだ。暫く姿を見ないうちに随分と成長したものだ、と心の中で感心する。懐かしさも覚える。
 相性でいうのなら、蘭舞と凛舞にとって舞より砌の方が戦いやすかった。雛罌粟にとっても舞の方が戦いやすいあいて だろう。しかし舞は自分たちに集中している。そこで自分たちが舞から目を離すわけにはいかない。
 予想外だったのは砌の実力の高さ。力任せの攻撃なのにその動きに一切の無駄がなく洗練されている。熟練の腕前であることは誰の目にも一目瞭然だ。


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「下らない世界、下らない現実、下らない幻想、全てが下らない」

 焔は拳銃の弾をリロードしながら戦うが、術を使わない焔の拳銃はすぐに弾切れを起こす。そろそろ予備がなくなる頃合いだった。

「本来は狙撃専門なんだけどなぁ」

 隣にいる律は相変わらず戦う気配を全く見せないし、それどころか明後日の方向を気にしている。
 罪人の牢獄で圧倒的な戦闘能力を保有する榴華を相手にするのは自分じゃなく、砌とかだったらよかったのにと密かに思う。
 そもそも狙撃を得意とする焔は乱戦が得意ではないし、接近戦の相手と戦うのは苦手。
 銃撃だけで戦う焔とは違い、榴華は紫電を纏い遠距離近距離双方をこなし攻撃範囲も広い。
 だが、戦う理由があり、負けられない訳がある。

「嫌いさ、犯罪者が」
「何を言っているんだ? こんな場所にきて、罪人を殺して歩いて回っているお前らも充分立派な犯罪者だろうが」
「あぁ、そうだよ。それを理解して俺は此処にきている」

 榴華の言葉に、焔は頷く。そんなことは百も承知。それでも許せない物がある。例え罪人に堕ちようとも構わない。それで目的が達成できるのなら。

「沢山の罪人を殺し、自らも罪人となろうと構わない」

 殺された――最愛の人を。

「堕ちた白き断罪か、白が赤に染まるか」
「白は何色にも染まるものさ」

 弾が底をつく。拳銃を発砲しようとしても、空の音が響くだけ。

「そこをつきたようだな」
「……律、お前の護身用の銃を貸せ」

 銃弾がなくなったのなら新たしいのを用意する。自分の手持ちにはもうない。だが、護身用として律が拳銃を持ち歩いている。律の方へ手を出す。

「えー」

 なのに律は渋る。

「貸せよ!」
「えー」
「……」
「だって、焔は銃弾を必要としないじゃないか」
「……」

 焔は律の一言で押し黙る。銃弾を必要としない、それは紛れもない事実だった。しかし白き断罪の誰にもそれを言っていない。自らの手の内を白き断罪に全て見せていないから。

「なんで……それを?」
「焔の銃の種類に対して、弾が少なかったからな」

 見るべき所はしっかりと観察していると焔は表情に出さないように努めながら感心する。しかし僅かに変化はあったのだろう、律はその顔を見ながら僅かに頬を緩ませていた。それが焔にとっては何処か不気味でならない。

「じゃああれか、お前は第一の街支配者を舐めているのか?」

 話の断片が耳に入っていた榴華の周りを纏う紫電の光が強くなる。それに伴い当然威力も上昇する。

「いや、どう考えても舐めるわけないだろう!」

 ただ、銃弾を必要としていないことを隠していただけ、それだけのこと。


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