零の旋律 | ナノ

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 しかし、想思の武器が髪だということは、篝火は百も承知。
 髪の毛が襲ってくる前に、腹部を思いっきり殴る。
 勢いに任せたそれは、想思を後方へと飛ばす。
 建物のレンガに激突をして、想思は吐血する。

「……」

 肋骨が確実に何本か折れたなと、想思は実感する。

「……どんなっ……パワーがっ」

 想思は立ち上がろうとするが、その途端激痛に襲われる。
 人形といっても、痛覚は勿論のこと、触覚、味覚、嗅覚、聴覚、視覚の五感は全て揃っている。
 怪我をすれば痛いし、悲しいと思えば悲しい。
 勿論、それは、感情を持ってしまった“失敗作の人形”にのみあるもの。

「……君みたいな実力者なら、罪人の牢獄から、抜け出そうと思えば、抜け出せるんじゃないの?」

 思わず、疑問を口にする。出ることが不可能と言われていても――それが本当に不可能か怪しいもの。

「……無駄だよ、罪人には消えない証、刻印が刻まれる。その証がある限り、俺らは罪人。政府の国にいったところで、安寧は出来ないよ。ばれたらそれで終わりだ、気を許せることがなくなる」

 罪人の証として、刻まれる烙印、それは消えない証。
 罪人である証拠。

「それが、ある限り君らは此処にへばりつくんだね」
「そうだ。政府の国以上に他人の命を奪って、醜く生き延びるんだ」

 消えない証、消えない傷跡消えない罪の印

「さて、そろそろ僕らの戦いは終盤みたいだね」

 歯車が崩れた、壊れる、崩壊はすぐそこ
 その前に後少しだけもって、後少しだけ
 ――後少しだけ

「でもね、僕は負けないよ、僕の存在意義がなくなったら、僕は何をすればいいのさ」
「……」
「人形は政府の都合のいい駒として動くことが、存在意義、けれど、僕にはそれがないからね」
「存在意義がなかったら……生きられないのかよ」
「おかしなことをきくね。君と僕は敵どうし、それなのに生きられないのかよって言葉はおかしいよね。僕らは生きるか死ぬかの戦いをしているんだ。白圭の役に立つこと、白圭の目的の手助けをすること、白圭につき従うこと、白き断罪第三部隊百蓮に忠誠を誓ったこと。それらが今の僕の意義、だから、ここで負けることはすなわち、全てを無くすこと」

 狂ってもいい
 存在意義が消え失せること
 それが怖い
 それが恐ろしい
 それに恐怖する。

「だから、僕は戦う」

 唯、それだけのために、唯、それがあるから

「最終幕だ」

 ――そこに華を添えましょう、綺麗な血に染まった華よ


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