零の旋律 | ナノ

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「ちぃ、本当にややこしい術だっ」

 郁は二刀を巧みに操りながら破壊していくが、それらはすぐに元の形へ復元される。斬っても破壊しても砕けても減ることのない術。
 由蘭はさらに第一の街を破壊した時と同様の爆弾を新たに作り出す。

「なっ!」

 郁と朔夜は反射的に避ける。最も朔夜は寸前の回避だったが。複数の爆弾は各々途中で建物に激突して爆発する。そして――斎のいる建物にも後数秒遅ければ爆発していた。
 爆発寸前で空中で爆弾が停止し爆発した。それは周囲に被害を及ぼさない。四角い結界の中に閉じ込められたからだ。

「全く、人が寝ているところに危険なものを投げないでよね」

 誰がやったか声を聞くまでもない。誰がやったか考える必要もない。
 それは斎の術、他の誰でもない符術師と呼ばれる斎の術。
 二階建ての病院の、二階のベランダから斎は身体を出す。

「ピンチには必要でしょ? 実力者が」
「ふざけんな、重病人が」

 そういう朔夜の口元は笑っていた。
 ベランダからそのまま身を乗り上げ、地面に落下する。
 衝撃を和らげるために、由蘭の使った緩衝させる術と同じに見えるものを使用する。

「由蘭。術の成果……見てあげるよ」

 朔夜から借りたワイシャツの所々から生生しく包帯が巻かれて、一部からは血が滲んでいる。
 暫くは安静にしてろといわれた斎だったが、白き断罪がいる、嘗ての仲間がいて、今の仲間がいる今この時、悠々と一人寝ているわけにはいかなかった。

「重病人は……尻尾を巻いて隠れていて下さい」

 そうすれば、出会わなくて済むから。
 これ以上、傷つけないでほしい。傷つかないでほしい。


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 想思は馴れない剣技で精一杯、技を繰り出す。
 篝火は元々接近戦が得意なため、技を見切るのはたやすかった。
 右横に一直線に繰り出された剣技を、篝火は想思の左手首を掴み、勢いを逆方向にずらすことで、自身に刃が向かないようにする。
 そのまま、横に軽く跳ねて移動する。そして自由な右手の方で、想思の手首を思いっきり叩く。

「つっ……」

 ガードも何も出来ない状態での、篝火の攻撃に腕が一瞬麻痺し、曲剣を地面に落す。
 それを篝火は左足で柄の部分を、ボールを蹴るように蹴り飛ばす。

「あっ……」

 腕を掴まれたまま、想思は声を上げる。
 だが、想思の武器はまだ残っている。自身が最も信頼し、使い込んだ武器が、そう――髪の毛が
 篝火を突き刺そうと、鋭くとがらせた刃が一直線に向かう。


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