零の旋律 | ナノ

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「何故……」

 繰り出される刃は洗練されている。
 交わす動きに無駄はない。

「一緒に泥棒をする相棒だから。それ以上のでもそれ以下でもないと勝手に否定していた。付け込まれたら終わりだとどうでもいい勘違いをして、あいつの想いを認めることが出来なかった」
「捕まりたくなかった? ううん、裏切られたくなかった?」
「あぁ。全く下らないよな。俺はあいつの一言一行に癒されていたのに、あいつの嫣然一笑が好きだったのに認められなかったのさ、大切だったのに。逃げたからこそ此処にきて、認められないまま日々を生きているんだ」
「でも、君は認めたら先に進める!」

 想思は飛ぶことを止めて、地面に着地する。そして、羽として使っていた部分も攻撃に回す。上空にいるから安全だなんて思っていない。現に一度破られた。何時までも空中で互角の戦いを繰り広げても意味はないと判断した。前回の衣装は戦いの最中ボロボロになってしまい前とは違う衣装に身を包んでいる。前回同様存在感を現す装飾品が多い中、白い服の腰ベルトの留め具に留めてある、曲剣を取り出す。前回は持っていなかった武器だ。髪の毛が短くなり、攻撃範囲、威力共に昔より落ちてしまった、想思の苦肉の策。

「負けるわけにはいかないからね」
「それは此方も同様だ」

 負けること、即ち死。死すれば目的が、達成できなくなる。達成するためには、目の前の敵を殺さなければいけない。
 そこに、手加減も情も必要ない。
 必要なのは、敵を殺す力だけ。


+++

 リングが勢いよく回転する。

「あはははっ、どうしたのー」

 舞と砌は手を休めることなく、力任せの攻撃を繰り出す。
 本来後方支援が得意な、雛罌粟にとってそれは喜ばれる状況などではなく、苦戦を強いられる。
 簡易結界を作っても、攻撃に負けて直に破壊されてしまう。
 攻撃をしようにも結界術にたけた雛罌粟はすぐさま攻撃に移れるだけの攻撃手段がなかった。防戦一方といっても間違いではない。最も雛罌粟は現状傷一つ負っていないのだが。

「燃えちれ」

 そこに一本の煙草が落下してくる。
 砌と舞は直観でそれが、唯の煙草ではないことを感知し、後方に下がる。雛罌粟は後方に下がらず簡易結界を張る。煙草は地面から一メートル以上離れた地点でオレンジ色の閃光を放ちながら爆発した。

「待っておったぞ」
「お待たせしまいた姉様」
「遅くなってすみません。姉様」

 雛罌粟より後方に現れたのは雛罌粟の腹心の部下にして、罪人の牢獄で唯一銀髪に忠誠を誓う稀有な双子、蘭舞(らんまい)と凛舞(りんまい)。二十代中ごろの容貌。桃色の髪に紅き眼。黒いズボンの上に、長いスカートのようなものを穿いている。投げた煙草の代わりに、煙草を新たに取り出し、マッチで火をつけ、口にくわえる。
全く同じような容姿と格好をしている双子だが、違いがあるとすれば蘭舞は右目を隠すように、ボブ上にカットされた髪の毛に右目付近の前髪にはピンが止められている。凛舞は蘭舞とは左右逆で同じ髪型をしていた。

「蘭凛!?」

 さらに乱戦者が現れ驚いた声をあげたのは、雛罌粟ではなかった。
 白き断罪にいる――舞だった。

「ん? そのなりは……煉舞(れんまい)か?」

 驚いたのは舞だけではない。蘭凛は其々口にくわえていた煙草を地面に落す。


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