零の旋律 | ナノ

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「さて、御二人さん、自分が相手いたしますよん?」

 挑発的な態度をとりながら、榴華は、焔と律の方に向く。
 身体から半径一メートル以内には、円上に紫色の稲妻が辺りを支配する。
 君主を守る部下のように。

「本当に、これは乱戦としかいいようがないよな」
「まっ頑張れ」
「殺意というものは往々にして現れるものです」

 焔はあくまで戦うつもりの無い律に棒読みで喋る。その声の裏には貴様も手伝うくらいしやがれボケ、という意味が含まれている。

「ははは」

 律は笑い誤魔化す。勿論焔の棒読みの意味も寸分狂わず理解している。

「……お前はなぁ」
「これが俺さ」

 律の態度に焔は目の前の敵――榴華に集中することだけを考える。律に手助けを期待するだけ無駄だと悟っているから。悟っていても期待したくなる物があるのを理解しながらも。

「此処はな、俺が守りたい人が生きていくに必要な場所。此処では侮蔑されない、此処では虐げられない、此処では理不尽な暴力に会うこともない。この空間でこの場所で、日々を生きて貰うのに大切な所。それを穢す者に容赦も情けもする必要はない」
「それがお前の戦う理由でも、此方にも此方の理由がある」

 榴華は口調を素に戻す。焔もその変化に気がつき気を引き締める。律と烙の報告によれば支配者の中で随一の戦闘能力を誇る相手が相手なだけに油断は厳禁。
 本気で戦わなければこちらが死ぬだけ。
 生と死の境界線を渡る。


 周囲で観戦していた罪人は逃げる。
 この場にいては、邪魔になり、そして死んでも何もいえなくなるだろうと。
 命惜しく逃げまどい、敵に背を向けて逃亡する。
 唯、建物の裏に隠れながら、闘いの行く末を見守るもの以外は、罪人はいなくなる。
 建物が崩壊していく。攻撃の余波をくらい、攻撃を喰らい。
 消し炭になり、轟音が響き、そして貫かれ。


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「ただ、嘆くだけならば誰だって出来る。けれど僕らはそれを良しとしない」

 想思は語る。嘆くことには飽きた。嘆いたって誰も手をさし伸ばしてくれなかった。 ただ、出来そこないと嘲笑するだけ。ならば手をさし伸ばされるのを待つことはしない。自ら手を伸ばし走る。走って走って走って、最期には――

「人は、沢山の罪と戦いながら生きていく、そしてその中で大切な何かを見つけていく」

 出会えた。大切な人に。

「君は、見つけられた? 国の中で、大切な何かを」
「……」

 一瞬言葉に詰まる。思い出すのは、最後にみた泣き顔。
 そして、白き華が告げる残酷に貫く優しき言葉

「大切な何かを」

 繰返す、人形は

「あぁ。まぁ、俺は小さい頃から盗みをやって生計を立てていたけどな、でも大切な存在はいた」
「今も此処にいる?」
「いや、俺が大切だと心の中では認めていたのに、どうしてもそれを表だった認めることができなくて……失った」

 ――大切だと認めていながら、何故気付かないふりをするの? そうして君は大切な人をいつか失う。
 ――どうして、否定することしかしかなかったの。気がつかない振りをして、逃げていただけじゃないか


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