零の旋律 | ナノ

V


 ――光がなくなり、絶望に打ちひがれたとき、唯一つの希望を見付けた
 ――例えそれが、終末を描く世界の敵だとしても

『俺らにとってそれが世界の全て』


 前回殴られたリベンジを果たすべく想思は篝火に集中攻撃をする。篝火もそれに答え、焔は榴華に任せ自分は想思に専念する。細かい動きで想思は攻撃してくるが、篝火にとってそれは前回ほど脅威になりえるものではなかった。何故なら髪の毛の量が以前とは違う。明らかに手数も減り上空からの攻撃位置も低空になっている。
 本来なら、紫電の攻撃――固有能力を持つ遠距離攻撃も可能な榴華に、任せるべきなのかもしれなかったが、前回戦ったことのあり想思の手の内をある程度知っている篝火が相手をすることにした。

「僕は唯の人形、人形の存在意義を奪わないで」
「だから、その人形ってなんなんだよ!」

 人形――何故彼がそういうのか篝火には理解出来ない。

「いいよ。教えてあげる。……嘗て政府が政府の為に都合のよい“人”を作りだそうとした。“人間”を土台にして政府の命令だけを聞く忠実な僕となるようにね。それが僕ら“人形”」
「――!? なんだと?」

 篝火は耳を疑う。一体その言葉の真意は何で、それが示すことを何か。理解しようとする頭と理解したくない心がおりあわさる。

「僕らは“人間”の形をして“人間”を元に作り出された存在――存在してはならないもの(殺戮人形)君らにはわからないよ、そして、その計画は政府中枢のトップクラスの機密情報。君らが知るすべもないもの。さらに、僕はそこの失敗作。中途半端に自我を持ち、中途半端な戦闘能力しかない、完璧な失敗作。まぁ、失敗に完璧をつける意味もないだろうけれどね、僕には“人形”として存在する意義がない、だから僕はここで戦う。それだけだよ」

 叩きつけられる事実は残酷で、一瞬だけ動きを鈍らせる。
 驚愕に見開かれた瞳は、信じられないと否定しつつも、それが嘘ではないと理解する。
 戦ったからわかる、想思が戦う術は特殊過ぎたから。
 戦ったからこそ、想思の言っていることが嘘ではないと告げる。

「でもね。唯一つだけ僕にもやりたいことがあるんだよ、完璧な“成功作”にして“反逆者”の人形――唯乃沙羅(ゆいの さら)、彼女に会いたいんだ、だからもしも君が唯乃沙羅という人形に出会ったら伝えて、失敗作の人形――狗憑想思が探しているってね」
「……それだけは伝えてやるよ」

 これは、唯のエゴだろうか、何も知らない相手への。
 何もしらない敵への。唯の同情ならば相手は求めてはいない。唯、同情してもらうためだけに話したわけではないし、同情されたいわけではない。
 ましてや、篝火は深く理解していない、表面上のことを聞かされただけ。
 根本を何も知らない。
 唯、わかることは、腐っているということだけ――政府が。

「有難う、見た目よりは優しいんだね」
「なんたって、保護者なもので」
「子守りは大変だ」

 想思は口元を緩める。叶わないことだけど、もしもを思わずにはいられない。もしもこの場で敵として出会わなければ、どうなっていたかと。そしてどうにもならないことを同時に理解し空しくなるだけ。ぽかりと開いた胸の空洞は埋められない。


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