零の旋律 | ナノ

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「あららん、なんかワサワサ湧いて出てきちゃったわよ。珀露」

 それを片隅で見ている存在がいた。巻き添えは御免だとばかりに離れた位置で他の傍観している罪人たちに紛れ、戯遊と珀露の第二の街名物変な組み合わせがいた。
 べたべたと珀露にまとわりつく戯遊に珀露は眉を顰める。そろそろやめないのなら叩いて追い払おうと決める。

「どうしようかしら、これは」
「……」
「それにしても白き断罪って思っていたよりも実力者の塊なのねぇ。それにしてもあのピンク帽子の子、何処かで見たことがあるような」
「……」
「ねぇ珀露、シカトは辛いよ! 私一人で独り言を永遠と繰り返すなんて空しいじゃないの」

 懸命に戯遊は珀露に話しかけるが、珀露は一向に返事をしない。返事をするのも億劫なのか口元に手を当てて欠伸をする。

「もーう、珀露ったらつれないのねぇ」
「……」
「こんな珍しい組み合わせなんて中々見られるものじゃないと思うんだけどねぇ。それにしても、歪よねぇ、ねぇねぇねぇ珀露」

 戯遊のウザさに対しての我慢の限界を超えた珀露は容赦なく戯遊を叩くことにした。
 まずは後ろで自分に抱きついている戯遊の身長を縮めるべく、戯遊を振り払い、肘を思いっきり後ろに着きだし鳩尾に当てる。

「ぐわっ……」

 怯んだ隙に今度は足の指先を狙って脚で思いっきり踏みつぶす。痛さでしゃがんだ戯遊の頭を珀露は手で何回も殴りつける。
 長い袖が上下に舞い僅かに砂埃を立てる。

「いたいいたいーよ珀露」
「ウルサイ。馬鹿が何度もワタシに話しかけるな」

 珀露にしては珍しく長い文章を喋る。理由は明快で戯遊にまとわりつかれるのが迷惑だから。

 ――動き出した歯車はゆっくりとしか止まってはくれない


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 律は軽快に攻撃を交わしながら頭をかかえる。

「あー初めて自分の立てた作戦を呪う」
「……なら、戦え馬鹿」

 律の独り言にしては少し大きい声を正確に聞きとった焔は口を挟む。

「戦わないから作戦立てているんだろ。つか頭脳労働者に馬鹿はないだろう」
「戦わないからってやっぱり戦えるんじゃねぇかよ。ならアホ」
「さぁ? どうだろうね。そしてアホでもない」
「誤魔化すなピンク帽子」
「だからピンク帽子って名前じゃない」
「あぁ?」

 焔の声のトーンが若干下がる。
 流石に律が何かしら文句をいうのに腹を立て始めたからだ。



「対戦は二度目になりますわね、このたびは命を頂きますわ」

 由蘭は手に持っている青い本を開く。頁を捲っているわけではないのに自然に頁が移動する。
 戦いの旋風はあっても、自然の風が流れないこの空間で、突風が吹き荒れているかのように、本だけのページがめくれる。
 右へ左へ、そして蒼く発光を始める。


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