零の旋律 | ナノ

第伍話:人形の想い


「お前ら三人が加勢か?」

 律は一番自分の近くにいる由蘭に問う。

「いいえ、砌様の後方から舞様がいらっしゃいますわ」
「舞もか」
「えぇそうですわ。それに白圭様は罪人を軽んじることはありませんので、勿論白圭様も暫くしたら来られますわ」 
「そうか」

 律はその言葉に益々どうやってこの状態から撤退しようか考える。いっそのこと非戦闘員の肩書を利用して、この場から逃げようと考えるが、周りに敵がいて且つ白き断罪がいる時点で許してくれないだろうと悩む。もたもたして、会いたくして仕方なくて、同時に会いたくなくて仕方ない相手には出会いたくなかった。出会ってしまえば二年前二人の目の前から姿を消した意味が、二人のいない二年間が水の泡と化すような錯覚に陥るから。
 まだ、出会うわけにはいかない。目的を達成していないから。
 狭い世界の中で見つけた唯一の親友と再会するわけにはいかない。


「初めまして、私は白き断罪第三部隊所属、砌(みぎり)よ」

 砌は挨拶と同時に右足に重心をかけ、左足で勢いをつけ彼らの真ん中まで移動する。 そこでメイスを力任せに振るう――遠心力も加わり威力はその辺の武器より遥かに威力が高い。遠心力で重心を失いバランスを崩さないように足元に力を入れる。さながらハンマー投げのように回すがメイスから手は離さない。

「危なっ」

 篝火たちは砌の攻撃が視界に入ると同時に一斉に後ろに下がり砌の攻撃範囲から逃げる。
 当たれば骨の一つや二つ、簡単に砕けてしまいそうだった。メイスの威力は単純に高く、雛罌粟の結界術の強度を上回り、光の球は次から次へと歪な音を立てて壊れゆく。

「さて、これでいいかしら。邪魔な術から消すのが普通よね?」

 光の球が全て消滅した所で砌はメイスを振るうのをやめる。汗も疲れも全く見せない。

「なかなかのパワータイプのようだな、お主」

 雛罌粟は、武器である扇子を取り出す。
 簡易で作り上げた結界術を易々と破壊されてしまったら強度の高い結界術を構築しなければならない。
 雛罌粟が本気になれば、それこそ斎の扱う結界術とは比べ物にならない強固な結界を作ることも容易。しかし、威力が高ければ高い程。詠唱は長くなり敵がいない場か安心して前を任せられる相手がいないと出来ない。中途半端な形で結界を作ってしまえば不発が起こり、下手すれば安全なはずの結界が危険極まりない結果を導く可能性もある。だから斎の場合はそれが起こらないように、結界術の術式を符に描き入れ、魔力を込めて後は短い詠唱だけで発動できるようにしている。一方の雛罌粟はそう言った事を一切していないため、高度な結界術となると一から構築する必要があった。最も雛罌粟の腕前であれば強固な結界を作るのに長時間を有することはない。
 雛罌粟にとって周囲に気を配る必要のある乱戦は望ましいものではなかった。

 一方の榴華は、罪人の牢獄最強と呼ばれる戦闘能力を有している。乱戦だろうが、なんだろうが戦闘にいたっては脅威の力を示す。中でも得意とするのは接近戦での格闘だが、紫電を用いれば遠距離での攻撃も可能だ。
 そして驚異の直感力と反射神経で幾つもの修羅場をくぐり抜けてきた経験もある。
 ふと、榴華はこの場に柚霧がいなくて良かったと安堵する。こんな危険な場所に大切な幼馴染を危険に巻き込むわけにはいかない。


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