Y 隣にいる律は、攻撃は交わすものの、焔を手伝う気配はなし。 時たま焔は律に殺意を覚える。 「……そりゃぁ」 両手で持っていた狙撃銃を肩から掛けているベルトにしまう。そして茶色のベストの中に隠していた拳銃を取り出す。 「お前も偶には戦えっ!」 狙撃銃では不利と判断し拳銃に切り替える。最も不安は残る。銃弾が足りるかと。しかしすぐに最後の手段は残してあると自嘲気味に笑った。 「あぁもうっ郁の奴はまだかよ」 中々攻撃が当たらないため、苛立った様子で朔夜は思わずまだこの場にいない郁のことを口走る。郁の言葉に反応して一瞬、雷を避けていたはずの律の動きが止まる。 「――!」 その一瞬隙を見逃すことなく一気にたたみかけようと雷の術を乱発する。 「うわっ流石にやばい」 律は急いで回避行動をとる。一瞬だけ頭上を見上げ、何処に雷が落下してくるか位置を正確に把握し、雷が落下しない地点に移動する。 「今のは危なかったな」 「危ないなら避けるんじゃねぇってんだよ!」 「所で、郁って名前は? そこの金髪の彼の名前とは思えないが」 「あいつは篝火だよ。郁ってのは」 同姓同名の可能性を考えないわけではない。まして姓を罪人の牢獄出は名乗らない。 それでも同名の可能性は零に近いと本能が理解する。 「朔!」 丁度その時、此方へ向かう影が三つあるのを律は確認する。 ――私は貴方にのみ忠誠をつきます ――私が跪き頭を垂れるのは、唯貴方だけ 全身を真っ黒で包む郁、第二の街支配者雛罌粟、第一の街支配者榴華がやってくる。 郁は急いで朔夜の応援をしようと駆けよっていたが、途中でその足取りが失速し最後には止まる。 ――何故いなくなったのに、今此処に 混乱が生まれる。見覚えのある、忘れるはずもない人物がそこにいたから。 「どうした? 郁」 「どうしたん? 郁ちゃん」 その様子に榴華も疑問に思い声をかける。しかしその言葉は郁の耳に届かない。 「律にぃ」 郁は律の名前を呼ぶ。信じられない思いで。その瞳は驚愕に満ちている。 ――どうして、突然いなくなった [*前] | [次#] TOP |