零の旋律 | ナノ

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 一通り調べ物が終わった後、泉は仮の住居に帰宅する。篝火たちは斎のお見舞いにでも行ったのか、既にその姿はなかった。特に気に留めることもなく、泉は眠りにつく。


 時は少し遡り、篝火たちは朔夜を起こした後、支度を済ませ斎の元へ向かった。手土産は何もない。

「おはよー」

 白く清潔感の漂うベッドの上で斎は横になりながら、篝火たちに挨拶をする。

「お見舞いにきてくれるなんて嬉しいね、ありがと―。帰っていいよ」
「おい、待てこら。それがお見舞いに来てやった奴に対する態度か? 人様の親切を無碍にするんじゃねぇよ」
「だって朔夜の顔を見たら治るもんも治らなくなるじゃないか」
「上等だ、なら一生治らなくしてやる」
「えぇ、そんなことしたらかわいそうじゃん、俺が」
「お前がかわいそうになる分には何も支障がない、俺が」
「酷いなぁ、本当にもー」

 そういいながらも、斎は楽しそうに笑っている。朔夜もだ。

「そういや、今さらな事を聞いてもいいか?」

 郁は斎の方を向き問う。何? と首を傾げながら郁が自分に聞きたい事があったかと思案する。自分が隠していたことの殆どは話してしまっている。特に、誰にも言うつもりがなかった。それこそ墓まで持っていくつもりだった殺害動機まで話した。

「白き断罪の白圭(はくけい)が、お前のことを“ハルミネ”って呼んでいただろう。あれは一体何だ?」

 郁に問われてから、そういえば白圭が自分のことを“ハルミネ”と呼んだ時、隣に郁がいたことを思いだす。

「あぁ、それか。“ハルミネ”に深い意味はないよ。俺の名字」
「名字?」
「そ、俺のフルネームは遙峰斎(はるみね いつき)っていうだけの話」

 そこで初めて斎のフルネームを知る。斎だけではない、全員は全員、今の今まで自分のフルネームを口にしたことがなかった。それは此処が罪人の牢獄だから。
 誰も語らなかったし、誰も追及しなかった。勿論彼らは知らない。梓や榴華、雛罌粟たち支配者のフルネームを。今現在名乗っている名前が本名なのかも知らない。
何も悟らせないための暗黙のルール。


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