零の旋律 | ナノ

V


 暫くしてから篝火はまだ睡眠中の二人を起こすことにした。

「さて、郁、起きろ」

 郁の肩を数度軽く叩く。暫くすると、左右に身を捩りながら、郁は両手を頭より上にあげて背伸びする。

「ふぁわ、ん? おはよー篝火」
「おはよう。早く顔を洗って服を着替えてきた方が、すっきりするんじゃないか」
「お前はいつから私の母親になった」
「……保護者から昇格していないか?」
「おかあさーん」

 棒読みでそう呼ぶ郁の頭上に、篝火は軽く拳骨をする。

「いたっ」

 別に痛くはないが、声をあげてしまうのは単なる条件反射。
 ふふ、と二人で笑いあったあと、郁は立ち上がり、気が得るために洗面台に向かう。
 本当に、ここが罪人の牢獄であるのだろうかと錯覚してしまう。
 例え、仮初だとしても、今ある時間は仮初ではない。


+++

 泉はある場所へ向かっていた、情報があった。手に取るようにわかる情報が。

「やはりな、……見事に軌跡を消したか」

 態と自分に情報を掴ませないように暗躍している。流石と言うべきか、と泉は不敵に微笑む。手の内を知っているのはお互い様。何をしようとしているのか、何を目的としているのか、確固たる情報がない以上確信は出来ない。それでも想像はついているし、その想像が正解である自信もあった。
 だからこそ、探し見つけ出す必要が出てきた――。

「……帰って寝るか」

 その場所で得られる目ぼしい情報は何一つなかった。岐路に着こうとした時、人の気配を感じ、鞭をしならせる。

「うぉっ! 危ないよ、泉―」
「わかっていてやったんだ、お前こそ何用だ? 今は機嫌が悪いんだ。殺されたくなかったら俺の目の前から今直消えろ」
「出会い頭に殺そうとするなんて酷いー」

 泉の当てるつもりだった鞭を交わし、泉の前に飄々と姿を現す。年齢に不釣り合いな恰好、左右の髪を縛り、赤い縁の眼鏡をした男――戯遊(ぎゆう)

「消えろという言葉が聞こえなかったか?」

 右手に鞭を握り、左手のひらの上で、鞭を軽く撓らせ音を鳴らす。

「それにしても流石ね泉。そうよ、此処に昨日の夜中、第二の街で結構な実力を誇っていた罪人が殺された」
「知っている」
「一ついいかしら? ――何故きた? 貴方なら事前情報でもなんでもあったでしょう。態々現場に赴くなんて貴方らしくもない」

 当然の疑問を戯遊はぶつける。無駄な事をしない泉が、無駄だと思える行動をしているから。


- 158 -


[*前] | [次#]

TOP


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -