T 「梓は最果ての街支配者だ。なら罪人の牢獄の女王様だ。まだ倒せても倒すには早いだろう?」 「いや、わけがわからないぞ」 「この街で、この牢獄で最も罪人の存在を証明する女王様はまだ殺すには早期だ」 「悪い、律。全く理解出来ない」 「まだ理解しなくていいさ。それに生半可な実力じゃない、梓は」 焔と同じ白き断罪の“仲間”であるはずの律の意味不明な言動に、僅かに焔は眉をひそめるが、この男の言動は今に始まったことではないし、別に嫌いでもなかった。 しかし、と焔は時々思う。他人に理解されようとさえ思わない男が律であり、己が信念と目標の為なら何が死のうが生きようが関係ない冷酷無慙な所があるからこそ、烙を始め他の仲間から嫌われる要因だろうと。 「俺はお前が嫌いじゃないから、そう言った言動も気にとめないが、此処にいるのが俺じゃなければ誰も納得しないぞ」 「だろうね、特に絡は俺のこと嫌っているから。まぁ正反対の道を歩くなら、相容れないのは当たり前だけど」 「やっぱりわけわからん」 会話をしている最中だからと、梓は攻撃の手を休めることはない。蔓は容赦なく白き断罪を襲う。二人は攻撃の軌道を確実に見切ってから交わす。慌てることはしない。 「まぁ、そういうことだから退くか」 「結局何も解決していないだろう。律よ」 「いんだよ、今はまだな」 律はピンク色の帽子に手を当てる。 「そういや……それ、似あわないぞ」 梓から逃げる為の逃げ道を確保する。そして迷いなく逃走した。梓は追わない。蔓が攻撃することもない、梓の意思で制止している。 「あはっ、面白いわねぇ」 それは、新しい玩具を見つけた子供の無邪気な微笑みのように微笑む。 しかし、そこにあるのは歪んだ感情。 「あの子のぉ、瞳は、“あれ”と同じ瞳ぃ。あははっ、あはははっ」 舞う、踊る沈め深く深く永久に。 ――消えろ 梓から逃亡した二人はそのまま第二の街の外れまできていた。外れ、といっても人通りがないわけではない。焔と律の白い服を目撃した罪人も勿論いる。しかし不用意に襲ってくることもなく、罪人は二人を観察していた。 「ふーん、襲ってこないのか」 観察したのち、二人が白き断罪だと確信を持ったのか、こそこそと逃げ始める――殺されないように。 「多分、不用意な争いごとを避ける為じゃないか?」 「どういうことだ?」 質問してばかりだな、と焔は思いながらも質問を止めない。第一、質問したところでこの男がまともに応えるとも限らない。 焔の髪の毛は黒く、左側の一部だけ鎖骨より少し下の長さで切られ、他の部分は肩より上で揃えられている。瞳は紅く、縁のない眼鏡が印象的だ。 薄茶色のベストを白き衣の上から羽織っており、銃を止める黒いベルトをななめがけにし、背中には銃を所持している。 現在第二の街では銃の所持が禁止されている、それゆえ焔の銃は自分たちが殺人を行っている犯人だと示す確固たる証拠。この街で雛罌粟の命令に背くものはいない。 [*前] | [次#] TOP |