零の旋律 | ナノ

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「さて、そろそろ寝たらどうだ。明日もお前らは動くのだろう?」
「その口ぶりだと、泉は寝ています起こすな危険って感じがするが」
「あぁ? 俺が何で三日も寝ずに動かなきゃいけないんだよ。仮に第二の街がどうなったところで俺の知ったこっちゃないしな」
「……悪人」

 ぼそりと朔夜は呟く。

「で、寝られないのなら、俺が気絶させてやろうか?」

 泉の手にはいつの間にか黒い棒状のものが握られていた。

「……それで殴るつもりだろう?」
「気絶させるんだから当たり前だろう?」

 やけに笑顔が恐ろしい。

「アホ馬鹿鬼畜!」
「百歩くらい譲って鬼畜は認めてもいいが、流石に馬鹿やアホはなくねぇか?」
「うっ……ってそこじゃねぇ! いいから武器しまえ! 危険極まりねぇだろ」
「危険じゃなかったら武器じゃないだろう」

 泉の手には気がついたら黒い棒状の武器が消えていた。しまったのだろう。ズボンのポケットに。
 朔夜は、武器がなくなったことにほっと溜息をつく。

「いや、それはそうかも知れないけどよ! 寝る、自然に寝るからあっち行け」
「そうか」

 泉は薄暗い部屋の中を、人にぶつからないように気をつけることもなく進んでいく。この後泉が何をするのかは知らない。情報屋としての仕事か、趣味か、それ以外か。

「なんか……普段の泉らしくないなぁ」

 篝火の独り言に表面上は誰も同意しなかった。再び篝火は横になるとすぐに寝付いた。その寝付きの良さを朔夜は羨ましく思う。

「(兄貴……)」

 そうして夜は更けていく。

 泉は2LDKの広さしかない、仮の住まいの場所で一室を奪い取っていた。元々使われていなかったのか、必要外の物は何もない。泉はクッションのある椅子に腰掛けて、腕を組み目を瞑っていた。
 寝ているわけではない。ただ目を瞑っているだけ。この時間が活動時間である泉には寝るつもりは毛頭ない。ただ、静かに耳を澄ませるように黙っていた。
 周りに渦巻くのは黒と闇。光が差し込む隙間が存在しないような黒。


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