T +++ 雛罌粟の住まいに篝火たちは案内された。雛罌粟の住居には普段、雛罌粟と腹心の部下である蘭舞と凛舞が済んでいる。 「ソファーに数名は座るがよい。残りはすまぬがその場に立っておいてくれ」 罪人の牢獄支配者が集う時に集会所としてよくつかわれる場所だった。広さはある程度あり、ソファーが対面するように並んでいる。その間には硝子製のテーブルが置かれている。少し離れた場所にある窓はステンドグラス。綺麗な紫陽花模様のそれは、太陽の光を浴びせられたらどんなに綺麗だったことだろうか。他には必要最低限の物以外は置かれていない。ある種、雛罌粟らしい部屋であった。 「って雛罌粟。全員座れる気がするが」 「むぅ、それもそうじゃの。我の誤算だ、気にするではない」 「そうする」 篝火と朔夜、郁が座りその向かい側には雛罌粟と泉が座る。此処が朔夜に家であれば篝火が紅茶を入れたのが、此処は雛罌粟の家。テーブルの上には何も乗っていない。 「あまり立ち話もなんじゃろと思ったからの、我の家に招いた。知っているとは思うがのここでのルールを再確認させてもらう。白き断罪との交戦のみ我は認めるが、それ以外の事に関しては無益な殺生は避けろよ。それと泉よ」 雛罌粟は隣にいる泉を見上げる。長身の部類に入る泉と、140pに満たない雛罌粟とでは、約頭二つ分くらいの違いがある。 「何?」 単独で呼ばれたことで、泉も雛罌粟を見下ろす。 「我に多少なりと情報を寄こして貰いたい。あのような下賤を頼りたくはないのでな、それにお主がいるならお主を頼るのが最適じゃ」 下賤、それが誰を指しているか容易に想像が出来た。戯遊――そう名乗った男は確かに頼りたくはない存在だった。 「まぁ、それぐらいはいいか、対価はこの街ってところか」 「そうじゃの」 それ以前に、最重要な情報を雛罌粟は手に入れたい時は対価を支払う。それを見越しているからこそ泉はそれ以上何も言わない。相手がわかっていることを態々いう必要もない。 「なら頼んだぞ、泉よ」 「あぁ、わかっているよ」 榴華や梓のように、話最中に口を挟むものはいなかった。雛罌粟は喋っている所を、要件もなく妨害されるのを嫌うからだ。 今後の事を含め、暫くの間話し合いは続いた。その後、雛罌粟は篝火たちが暫くの間拠点とする場所へ案内する。 「少しばかし狭いやもしれぬが、我慢してもらう」 最後に雛罌粟がそう付け足して、第二の街に来た一日目は何事もなく終了した。 [*前] | [次#] TOP |