第弐話:影の動き +++ どうしてこんなことになる どうしてこんなことになる どうしてこんなことになる 一体一体何をしたという―― 「わ、私はただ、ただただ平穏に生きていたかっただけだ。何故それを貴様らは邪魔をする!? 私の平穏を邪魔する理由などないはずだ」 同じことを何度も繰り返し叫ぶ。街外れの裏路地の壁に背をつけ、逃げたいのにそれを現状が許さない。 自分の目の前に近づいてくる存在に恐怖で壁にぶつかるのも構わずに後ろに下がろうと懸命になる。 それが意味を成さないことだと理解しながら、身体は勝手に動く。 「罪人の牢獄にいる時点で、平穏に生きていたかったって、それだけで矛盾が発生していると思うけど」 「う、煩いさい! 私が何を望もうとも関係ないだろう」 「あぁ、関係ないさ。だからお前が平穏に生きていられなくても関係ない。そもそも誰もが平穏に暮らせるわけなんてないんだし。人は誰かを踏み台にして、踏み台にした分の平穏を手に入れているだけだろう? 弱肉強食の渦の中で」 「ふ、ふふふふざけるな!」 「……それに俺がお前に興味あるのはお前の過去の経歴だけ」 淡々と目的を告げる。 「貴様は何者だ!!」 「お前は昔政府の役人だった男だ、武官から役人に転職した男だ」 「そうだ! 私は武術が得意だった。なのに、なのに何故貴様は私の攻撃だと最初からなかったかのように交わす!?」 信じられない物を目撃したように叫ぶ。自分に絶対の自信があったからこそ叫ぶ。その自信がプライドが、悉く目の前の人物によって破壊された。長年培ってきた力が一瞬にして砕け散った。名も知らぬ人物によって。 「簡単だ、お前が弱かったからだ」 「なんだと!?」 激怒する。それが事実であるとしても認めたくない思いがあるから。 「お前が弱いからだ、弱きものは搾取されるだけだ……。さて、俺の求める事を教えてもらおうか」 相手が恐怖の色に彩られてるのをその人物はおかしそうに嘲る。 「(下らない。俺が恐怖の対象なら、その場で自害でもすればいいものを。一類の望みを捨てきれないから、未だに生に縋っている。下らない)」 例え自分がどんな結末をたどろうと構わない。 それで、目的が達成出来るなら それで、意味がなすなら それで―― あの時あの瞬間あの日々は返ってこなくとも失ったものが取り戻せなくても 取り戻せないならば、奪ったやつから代価をいただくだけ ――何倍にもして奪ってあげるよ 「教えてくれたら、まぁ苦しまないように殺してあげるよ」 物騒な言葉に、なおさら男は恐怖に震える。 「苦しませて殺す方法なんて、いくらでもある。だからこそ楽に死にたいのなら、俺の知りたい情報を教えてくれ」 それは残酷な二者選一。どちらを選ぼうとも死ぬ。そしてそれ以外の選択肢はない。男は選択する――今さら、この場所に堕とされた時点で、相手に忠義を示す必要など何処にもない。裏切ったところで――構わないと。先に裏切ったのはあちら。自分が恐怖を押し殺してまで庇う必要はない。 最期ならば、望むは安らかなる死。 「わかった」 「最初からそうしていれば良かったんだ」 ――大切な存在を苦しめる者は全て滅ぼそう。例えその結果どんなことが待ちうけていたとしても。 [*前] | [次#] TOP |