零の旋律 | ナノ

Y


「ってかなんで一緒に行動しているんだっけか」
「……さぁ?」
「おい」

 理由なく戯遊と行動を一緒に出来るとは凄いと郁以下一同感心する。

「所で戯遊、何しに現れた? 特に用事がないのならさっさと俺の視界から消えろ」

 泉の手には未だ鞭がある。返答次第では殺されても文句はないよな? と目が訴えている。

「あるよーちゃんと用あるよ。泉は一体何処から白き断罪の情報を仕入れたのか知りたいのー」
「情報屋に情報元を問うのはご法度だろ?」

 そうでなくても泉は情報元を教えたりはしない。

「仕方ないでしょ? 泉は白き断罪がやってくるって“最初から”知っていたのに、誰にもなーんも教えなかったし。教えていたら物語の結末が変わったかもしれないのに」

 誰しもが感じている疑問。誰も今は口を挟まない。泉の情報力を、異様な情報を知っているからこその違和感。ただ、誰もそれを責めなかっただけ。情報提供に見合う対価を、あの時まで誰も支払わなかった。だから泉は何も答えなかった。起こりうることを知りながら、ただ傍観していただけ。
 対価無くしては、何も答えない。それが泉の情報屋としてのやり方。

「結末が変っていたかも? それこそ下らないな。後から求めた処で過去に戻る事が出来なければ何も変わらないし、仮に過去に戻れた所で結末は変わらないだろう? 情報は求められるから答えるのであって、求められなければ答えることはしない」
「相変わらずきついわね。変らなかった? 下らないわ。少なくとも貴方程の力があれば変ったことが多少なりともあったはずよ。皆と一緒に一蓮托生すれば世の中円満よ。君が円満の輪を乱しているんじゃないのかしら」
「……貴様のその気持ち悪い口調を直せ」
「やっだぁ」

 手を顔付近に近づけ、ピースマークを作りだす男に、篝火たちは視界から消したい衝動にかられた。
 罪人の牢獄には変人が多いのを重々承知していたが、それでもこの男を見ているくらいなら、梓と一緒に行動した方が幾分ましだとさえ感じる。

「あー今俺、無性に梓に会いたくなった。梓が恋しい、そしてこいつを殺してほしい」

 朔夜の言葉に、表面上は同意しなくとも心の中で篝火は同意する。

「お主、そろそろいい加減にしないか? この街の出入りを禁止するぞ」

 見かねた雛罌粟が口を挟む。

「えー出入り禁止にされて困るのは雛罌粟でしょ? 私らはこの街の情報屋なんだから」

 各街にいる情報屋、その中でも群を抜くのは泉であるだけであって、決して他の情報屋の能力が劣っているわけではない。泉の力が異様なだけ。だからこそ、情報屋の存在は支配者たちも重宝する。その筋の糸が切れることは白き断罪がいる現状好ましくないものだった。

「それなら心配無用だ、我は泉に頼む」
「酷っ。泉と比べられたら私ら商売あがったりだよー。泉もこんな依頼引き受けないわよね?」
「いや、お前の味方をするくらいなら喜んで雛罌粟に情報提供するぞ、勿論無償で」

 泉の容赦ない言葉に、戯遊は地面にしゃがみこんで落ち込む。一々動作が大げさだ、と朔夜は冷ややかな目で戯遊を見る。

「行くぞ。こんなお調子者に付き合っているだけ時間の無駄だ」
「はーい」

 泉の言葉に全員賛成で、誰も落ち込んでいる戯遊に気にすることなく、珀露にだけ言葉をかけて視界から消える。
 その様子を特に喋ることもなく珀露は眺めていた。必要外の事を滅多に喋らない珀露は、眠たそうに欠伸する。程なくして彼ら全員がいなくなったことに気がついた戯遊は勢いよく立ち上がり珀露に詰め寄る。

「どうして珀露、教えてくれなかったの!? 誰もいなくなったったじゃない」

 答えるのが億劫な珀露は何も答えなかった。
 戯遊が珀露の肩をその後ぽかぽかと軽く小突いた後、珀露に三倍返しされるのを罪人の誰かが目撃する。


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