零の旋律 | ナノ

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「やっほーい、久しぶり! 自称お友達!」

 その時後ろから聞こえた、場違いな程に明るい声に一瞬榴華を想像するが、榴華とは違う声に泉と雛罌粟そして郁のが同時に顔を顰める。

「無視しないでよー! 心の友!」

 泉の背中に抱きつくように飛び跳ねてきた命知らずな人物を泉は振り返る事もなく無言で術を発動させて、容赦なく弾き飛ばす。

「ぎゃっ痛いっ」

 受け身をとりながら地面に着地して、身体をうねうねとうねらせる。

「酷いわぁーお友達になにをするの!」
「気持ち悪事を言う名。勝手にお前が自称で名乗っているだけだ、不愉快だから口外するな」
「あららぁ、何時にもまして、泉が冷たいよー私悲しくて泣いちゃう」
「勝手に泣け! そして俺はお前に優しくした記憶はない」

 泉の手にはいつの間にか鞭が握られている。何時でも戦闘準備万端だ。

「泉よ、その鞭でそいつを殴ってほしいところだが、とりあえずこの物凄くうざい男は誰だ」

 朔夜が本人の前で堂々と悪口を含めながら泉に問う。
 泉に飛びついた事と言い、眉を顰めあからさまに嫌な顔をしている泉と、雛罌粟や郁はこの人物を知っているのだろうが、篝火と朔夜は見覚えがない。

「……こいつは、自称戯遊(ぎゆう)。自称詐欺罪で捕まった馬鹿で、自称珀露(はくろ)の恋人。自称第二の街の情報屋、公称は気持ち悪い」
「うわっ最後酷いやーん。それとまだ私の自称を忘れているよ。自称泉の友達!」
「…………」
「ちょ、そんなに睨まないでよ」
「雛罌粟、お前のとこの治安さらに好転させるためにこいつ殺っていい?」
「今は許そう。思う存分殺せ朔夜」
「りょーかい!」

 元気のいい掛け声とともに朔夜は指を鳴らす。別段必要はないが雰囲気作りといったところか。
 朔夜が攻撃に映る前に戯遊の後ろに今までひっそりと立っていた女性が、戯遊の前に立つ。

「マッテ」

 ひっそりと呟く声に、聞き逃しそうになるが、明瞭な為聞き取りやすい。

「おぉー珀露! 私を助けてくれるのね」

 自称戯遊の恋人と紹介されていた珀露は、戯遊の言葉等気にも留めない。

「あれ、殺るならワタシも」
「よし、一緒にやろう」
「いやいや、待ってよ、私を見捨てないで。私とあなたの仲じゃない」
「ウザイ」

 放っておけば永遠に続きそうな会話に郁の仲裁が入る。毎回何故私がやるまで誰も止めないのだと内心ため息をつきたくなる。

「いい加減にしとけ。朔夜に珀露。そして戯遊はウザイ恰好もな」
「これが私のスタイルなのに〜」
「それと口調もだ」

 掌を合わせて横に首を振り僅かに落ち込んだ素振りを戯遊は見せる。二十代後半と思しき外見、紫色の瞳に赤い縁の眼鏡をかけ、シルクハットのような帽子を被り、腰まである打つ茶色の髪の毛はお下げに縛っている。白いワイシャツにサスペンダー。腕部分からは手に近づくほど広がっている。腰にはチェックのミニスカートに一見すると見える布を巻き、ズボンにロングブーツの恰好をしている。

「いい歳こいて、そんな恰好をして出歩くな」

 郁の指摘に泉は無言の同意を示す。

「えぇ、三十路いったら恥ずかしいから今しかできないことを楽しんでいるっていうのに」
「二十歳越えの成人男性がやっても恥ずかしい事をしれ」
「表現の自由、じゆー」
「白露。こんな男見捨ててしまえ」

 何を言っても無駄だと悟った郁は珀露の方に視線を移動させる。戯遊よりは幾分若い珀露の髪は、水色で不思議なボリュームを持ち、一瞬だけ見ると髪の毛かと疑ってしまう雰囲気を醸している。
 長さは腰まであり、髪の毛と同じ水色の瞳は何処か明後日の方向を見ているよう。
 青と白を基準とした服装の袖布は長く、地面についてしまっている。それと同様に首に巻いているマフラーも長く、地面についている。

「……付き合ってない。こんな男と付き合ったら身の破滅。オワリ」
「それもそうか。悪かったな」
「ベツニ。いいよ」

 どこか独特な雰囲気で話す珀露と回りから気持ち悪いといわれる戯遊の組み合わせは傍から見れば異様だった。


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