零の旋律 | ナノ

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 一度砕け散った破片は元には戻らない
 戻ったとしても、それは別もの
 同じモノではない
 一度失えば
 同一では帰ってこない

 唯、悲しみと忘却、憤怒、嘆きの旋律を謳うだけ


「誰だって、死を望みながらも生へしがみ付いているのよ」

 彼女は口ずさむ。

「死にたいと心で思いながらも、生に恋い焦がれているから死なない。人間は欲深い生き物だから」

 彼女は謳う。

「例え、犠牲を払っても……ねぇ? でもね、いつかその犠牲への代償がやってくるものよ」

  彼女は紡ぐ。

「犠牲者も被害者も加害者も第三者も何も関係なく」

  彼女は彼女は彼女は――

「己が代価を払え」

  憎悪と憎しみをぶつける


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 医者へ案内してくれと頼まれた雛罌粟は、雛罌粟が最も信頼している医者の元へ篝火たちを連れていく。その医者は政府が定めている法律で禁止されている医療を行い、それが露見した結果此処へ堕とされた。唯朽ち果てるだけだったはずの医者を助けた――否、自分に都合よく利用しようとしたのが罪人の牢獄支配者銀髪。銀髪自らが助けただけあり、その腕前は一流。難なく斎の治療を終え、包帯も新しいのに取り替えられ、鎮痛剤が与えられた。そして暫くは安静を言い渡され医者の家に泊まるように命じられた。
 最初は渋っていた斎だが、最終的にはそっちの方が早く良くなると判断し、同意した。
 医者の元へ斎を預けた後、途中でひょっこり現れた朔夜と、篝火たちはその辺を目的もなく放浪することにした。その後ろには雛罌粟がいる。榴華は第二の街へ一足先に身を寄せた柚霧に会うために別行動をとった。

「何故、態々我の前から逃亡する必要があったのだ、朔よ」

 当然の質問に朔夜は上着のポケットに手を入れながら答える。

「気分」
「相変わらずお主は不器用じゃの」

 雛罌粟は朔夜の目的を理解しているからこそ、苦笑した。

「やっぱ雛罌粟にはわかるか」
「我がわからぬわけがあるまいに」
「……だよな」
「まぁ、不要な逃走をする必要性は微塵も感じぬのには変わりないがな、その辺がお主らしいというのかの」
「混ぜっ返すなよ」
「まぁこれ以上は特に気に住まい」
「ん、ありがと」

 朔夜があの場から離れたのは、自分が短気だと自覚していたから。何かある度に余計な質問をしていたり、榴華に突っかかっていては斎の治療が遠のくし、篝火の体力も何時まで持つかわからない。
 口に出すことは何処か憚られて朔夜は自分が逃走する事を選んだ。
 安直だと思わないでもないが、その方法が朔夜の中では最善だった。最もそんな思考、雛罌粟にはお見通しだったのだが。
 朔夜のことに関しては、これで話が終わり、その後の主だった会話は今晩何処に泊るのかという物。


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