零の旋律 | ナノ

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「おー遅かったやんか自分ら」

 そんな中、陽気な声で声をかけてきたのは第一の街支配者榴華(りゅうか)。相変わらずの楽そうな恰好に身を包んでいる。腕には複数のシルバーアクセサリーを身につけているのが唯一のお洒落心だろうか。

「自分らを待っているんの凄く暇やったよーそりゃあ一人で街を徘徊出来る程に」
「少しは口を慎まぬか」

 榴華の隣を歩く、十代前半に見える少女が第二の街支配者雛罌粟(ひなげし)。桃色の髪を後ろで高く結い、途中から二房に分かれさらに途中から縦に巻いている。あまり一般的には普及していない、赤を基調にオレンジや黒、ピンク等を使った布を気合わせた和服を着ている。長身の榴華と一緒に歩くと一層幼く見えるが、その表情は歳不相応の雰囲気を醸し出している。

「げっ……!」

 榴華と雛罌粟の登場に眉をひそめたのは未だにお姫様だっこ状態の斎。榴華にだけは見られたくなかった斎だが、その思い空しく姿を見られている。篝火に今からでも降ろせと抗議を兼ねてじたばた暴れたが、効果はなかった。
 斎の恰好に榴華は面白いものを発見した目つきで、そしてこんな姿もう二度とお目にかかれないと斎を凝視する。

「いやぁ有意義なもん見せて頂きましたわー毎度ありやな、イツン」
「今度榴華の自宅に爆弾を仕掛けてやるっ」

 悔しげに呟く斎に、榴華は頑張ってねぇと態とらしく手を振る。
 その様子を黙って眺めていた雛罌粟だが、榴華の飄々としふざけた言動が気に入らないのだろう。じっと榴華を横から凝視している。その様子に気がついた篝火はすぐに雛罌粟に声をかける。雛罌粟の機嫌が悪化する前に。

「相変わらず、此処の治安はいいよな。雛罌粟」
「そりゃーそうでしょうよ。ヒナちゃんが頑張っとるんやし」

 貴様は黙っとけ、と篝火は喉まで出かかった言葉を飲み込む。榴華の余計なひと言で雛罌粟の機嫌は悪化する。ふざけているのが雛罌粟には気に入らないのだから、一緒にいる時くらい真面目にしていればいいのに、そう思わずにはいられない。

「我が統治している街で不要な争いごとを起こさせはせぬよ」
「でもさぁ、此処に第一の街の罪人が来たら、それこそ治安悪化しちゃわないの?」

 この街へ移動する時から思っていた疑問を雛罌粟に斎は問う。第二の街がいくら治安がいいからと言っても、治安が決していいとは言えない第一の街の罪人が短期間とはいえ、避難場所として移動してくれば治安が悪化する可能性は高い。そんな疑問を雛罌粟は扇子を榴華に向けて返答する。

「そんな疑問は不要だ。我の街に来た罪人には最初から忠告しておる。治安を乱すものは我が許さぬとな、何、我に逆らう罪人など怱々おりはせんよ」

 その可愛らしい声と少女の姿がなければ、言葉だけで姿もわからなければだれしもが中年以降の威厳ある人物を思い浮かべただろう。年齢と姿が一致していないとはいえ、外見は可愛らしく、罪人の牢獄には不釣り合いな幼き少女でしかない。


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