第壱話:第二の街 幻想に夢を抱き 絶望した現実から逃避し 奈落の底へ堕ちていく 徐々に徐々に 本人が気付かぬまま 気付いたまま 受け入れようと 受け入れなかろうと 這い上がれない底にまで達すれば そこに広がるのは―― +++ 第二の街、それは第一の街から歩いてすぐ、とは言い難い距離にある。罪人の牢獄に存在する街の中で異様といっていいほど、治安がいい街であった。 この罪人の牢獄では到底あり得ない光栄、と中には口語する罪人もいる。第二の街の支配者は雛罌粟(ひなげし)。十代前半と思しき容姿をしているが、実際は特殊な術を用い、外見年齢を変化させているだけで、実年齢は篝火たちの遥かに上回っている。さらに雛罌粟に仕える腹心の部下である双子がいる。その双子も実年齢と容姿が合致することは滅多にない。それ故に第二街は年齢詐欺の街と呼ばれる。 「相変わらずこの街は治安が良くて平和だよねぇ。殺伐とした、つか血で海が作れそうな最果ての街とは大違いだ」 街に入ってすぐ斎は呟く。街の中心部には噴水があり、地面はレンガが一面に敷かれている。 建物はカントリー調の物ばかりに統一がされていた。 営業をしている建物は何の店か一目でわかるように、わかりやすい看板がぶら下げられている。ご丁寧に営業時間までかかれている。街頭があちらこちらにあり、街頭は時間経過によって灯が代わり、おおよその時間がわかる仕組みになっている。第一の街以上に、街。そういった場所だ。 「此処を見ていると俺こっち移住しようかなぁって気分になるよね」 「あぁ、そうしろそうしろすっきりするわ」 「でも朔夜をからかえなくなるのは日常に潤いが無くなるのと一緒だからなぁ」 「俺で潤いを作るな、他のみつけろ」 「朔夜で遊ぶ、朔夜をからかう、朔夜に郁の料理を食べさせる、とかが俺の日常の潤いなんだけど」 「後半は特に止めろ!!」 仲のいい兄弟のような、光景。何時もと同じやりとり。 「いっそ兄弟になったらどうだ?」 「あーごめん、俺一人っ子だから無理だわ」 郁の冗談に斎は乗る。 「俺も一人っ子だっての」 それに付き合うように朔夜も応える。 「一人っ子だからこそ可能だろうに。というか珍しいな、普段なら冗談じゃねぇ! なんでこいつと! って口を揃えるのにな」 口元に手を当てて郁はおかしそうに笑う。 「偶には付き合いのいい人を演じようとした親切心を無碍にするんですか、そーですかー」 郁の態度に、斎は態と棒読みにしながら頬を膨らませる。その姿は若干の愛らしさを出し年齢より若く見える童顔と相まってとても二十一には見えない。 [*前] | [次#] TOP |