零の旋律 | ナノ

V


「朔―怪我人には優しくしなきゃ」
「ってか何で今日はやたら朔、呼びが多いんだよ」

 普段、斎や郁は朔と呼んだり朔夜と呼んだり、その時の気分で変えるが、今日の斎は名前を呼ぶたびに朔だけだった。

「あぁ、それ、友情の証」
「やめろ、お前がそうわざと言うと気味が悪くなる」
「そうなるようにわざわざ声質変えていってあげているんじゃんか」

 ぎゅ、と効果音がしそうな感じに、朔夜は包帯を巻いているために自然と両手に包帯を握っている。それを斎の身体が閉まるように強く縛る。

「いっ……! 痛い! 馬鹿サクゥ……傷にもろ痛い」
「気味悪いことを平然と言うからだ!」

 普段は朔夜との会話で優位に立っている斎だったが、このときばかりは形勢逆転されていた。

「だからって、さぁ……」
「なんだ?」

 普段、色々と遊ばれているせいか、復讐のチャンスだと思っているのか笑顔な朔夜に斎の顔が引き攣る。
 余計なことを言って攻撃されたら流石にきついなと今言おうとしていたこと止め、口を噤む。

「なんでもない」
「そうか」

 それからは暫く無言で朔夜は斎の包帯を取り替えた。
 真っ赤に染まった包帯が床に散乱する。
 包帯を取り替えた後、丁度篝火と泉の朝食準備が終わった。
 テーブルに広げられるのは買い置きがあったフランスパンと苺ジャム。それに泉が作ったナポリタン。飲み物は泉が前に来た時においていった赤ワインと、篝火が入れた紅茶。
 それにトマトなどの野菜が大皿にサラダとして置かれていた。ドレッシングはゴマ。
 統一性があるような、ないような朝ごはんだった。

「大分バラバラ過ぎねぇか?」
「しばらく留守にするんだったらとりあえず、冷蔵庫にある材料を使おうと思ったらこうなった」
「ワインは長持ちするぞ」

 パンや、野菜は数日で直に悪くなってしまったとしてもワインは別に悪くなることはない。なのになぜ朝からアルコールがあるものを出すと朔夜が考えていると、答えたのはワインを持ってきた泉だ。

「それは、俺が飲みたいからだ」
「あぁ、そうですか」

 若干呆れる朔夜。白き断罪がいつ襲って来るかわからない状況でアルコールを摂取するかと考えたところで、泉が滅多に酔わないのを思い出し水分補給の代わりかと無理矢理自分を納得させる。


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