零の旋律 | ナノ

第六話:ひと時の


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 翌朝、最初に起床したのは篝火だった。もっとも起きていただけで示すのならば泉が最初であったが。本来夜行性で夜が活動時間の泉は寝ていない。だから睡眠を取り一番初めに起床した者を示すのなら篝火に他ならなかった。

「お前は老人か、相変わらず朝から活動して」
「自然と目が覚めるんだよ。低血圧や夜行性の朔夜や泉とは一緒にしないでほしい」
「寝つきもお前はいいしな」

 篝火は寝ると決めたらばあっさり眠りにつける。逆に寝付きが悪いのは朔夜で、布団に入ってから三十分程度、寝られないのは日常的。

「って、そうだけどそんなことまで知っているのかよ」
「その程度観察していればすぐにわかる」
「泉は、人間観察まで趣味の範囲だったのか」
「今更だろ?」

 人の個人情報収集に合わせ人間観察まで趣味とはどれだけ性質が悪い。罪人の牢獄に堕とされたお蔭で上ではどれだけの人間が泉の魔の手から逃れられ、救われた人がいるのかと考えずにはいられない篝火だった。
 そんな篝火の僅かな表情の変化も見過ごさなかったのだろう、泉はふっと口元をほころばせて苦笑する。

「それすら今更だろ? 一応お前とは二年の付き合いなんだからよ」
「そうだな」
「しかし、お前はい未だに随分と引きずっているやつだよねぁ」
「っ……お前なぁ」
「この牢獄に来た時、郁に害がないか判断するために調べたからな」

 泉は罪人の牢獄に来る前から情報屋をしていた。例え此処が罪人の牢獄であっても泉の情報能力には何ら衰えはない。
 国内部の出来事すら、どのような手法を使っているのか、平然と入手している。罪人の牢獄に暮らす罪人が隠し通したいと思い、願いすら泉は調べ上げる。
 恐ろしい程の男であり、敵に回してはならない男。
 篝火は今まで何度したかわからない程の再認識を再びする。

「で、俺は害がなかったから今までこうして、生きていられたわけですか、本当に郁以外にはどうでもいいんだな」
「それ以上にお前は保護者能力がありそうだしな」
「どんな能力だ!」
「想像でもしてみたらどうだ」

 保護者能力それはどんな能力なのか、篝火はとりあえず想像してみたが、自身のことを元にして考えるとろくなことがなかったため、直に強制的に想像を終了させる。

「朔夜をそろそろ起こしてくるよ、起こしても起動するまでに時間かかるしな」
「水でもぶっかけて目覚めさせてやれ」
「泉がそれをされたらブチ切れるように朔夜も間違いなくブチ切れるよ」

 そうなったときの責任は誰がとるんだと言いかけて篝火はやめる。
 この男に問うたところで、応えは一つしか返ってこないだろう。
 篝火に決まっている、と。
 云うだけ時間の無駄だから篝火は素直に起こしにいく。勿論水は持っていない。


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