第伍話:白と赤の瞳 +++ 烙はあの後真っ直ぐ白き断罪の自室に静かに戻った。横になることなく、壁に背を預け体育座りをして顔を覆う。 ――結局理由を問いただせなかった。 けれど、あそこまで頑なに理由を隠すのなら――烙の中で一つの可能性が生まれる。 あの時の斎の瞳は、昔のままだった。 その時、無音で部屋に入ってくる少年――夢華がいた。 「何しにきた?」 夢華の顔を見ることなく伏せたまま絡は声を掛ける。 夢華が入ってきたと確証していてわけではなかったが、それでもこんな時間に、自分が戻ってきたころ合いを見計らってやって来る人物は一人しか見当がつかなかった。 「気付いてしまった可能性があると戦えない?」 何故この真っ白な少年は、何時も確信を言い当てるのだろうか、何も喋っていないのに、そう考えられずにはいられない。 何も言葉をかけないで、そっとしておいてほしいのに。 「煩いよ」 「絡は何が許せないの? 信じている自分? それとも……自分自身への嫌悪?」 「煩いっ」 絡は顔をあげ、夢華を追い払おうとしたが、顔を上げたとき夢華の顔は眼前にあった。 「ちかっ」 思わず声に出してしまう絡に、夢華は再び絡が伏せないように両手で優しく絡の両頬に触れる。 「顔が見たいからだよ」 何度も繰り返すその言葉。 「だーかーら、遠くでも見えるだろうが、態々んな近づくなよ……そしてほっといてくれ」 「生きているなら、和解出来るよ」 夢華の言葉に烙は息が詰まるような想いになる。間近にある夢華の顔は何時見ても儚い。白い睫毛がより一層儚さを醸し出しているようだ。 由蘭とは違う少女らしさを持つ少年。 夢華の白き眼に自分の顔が歪んで映る。金色の瞳、自分が最も嫌う部位。 何故、普通の色をしていなかったのだろうか、何故滅多に生まれることのない金の目をしているのだろうか。 どんなに恨んだことか、どんなに嘆いたことか。 そんな中唯一自分に居場所を与えてくれた存在は今ここにはいない。 「守られるものと守ろうとする者……一種の同族嫌悪に近いのかもね」 「なに……がだ?」 夢華の言っている言葉が理解できなく首を傾げる。 「君と律のことだよ」 「なんで、律の野郎の名前が出てくるんだよ!」 律の名前を聴くだけで怒りが沸いてくる。今、その名を耳にしたくない。 「律が映しているのは此処ではない誰か。此処にはいない存在。守りたい者のために命を捧げた。守るために刃を振るう。君は君を守りたいと思う者に守られた。守るものと守られるもの相対するから、君は律が嫌いなんだね」 夢華の言葉が絡は理解出来なかった。 守るものと守られるもの、それは一体何のことか。否、理解したくなかった。 [*前] | [次#] TOP |