零の旋律 | ナノ

V


「銀色も、俺も過去に起きた出来事を引きずり続けている。だからこんなにも世界は狭い」
 世界とは自分がうつす世界。
 この世界を、人類が住まう場所を指しているわけではない。
 唯、自分の目で瞳で、映る世界のこと。
 悲しい程に、それは残酷でも
 美しい程に、滑稽でも
 全てが矛盾したとしていても、それは自分だけの世界。自分が描く視界の世界。

 ――全ては定められし血のもとへ

 全ては目的のために、目的を果たすためなら
 例え何が起きても構わない
 大地が血で埋め尽くされようとも
 人が死に耐えようとも
 自然が腐敗しようとも
 目的のためなら手段を選ぶつもりはない

「それが、君たちが僕たちにしたことに対する復讐だ」

 唯呟く。呟く。
 繰返して呟き、目的を忘れないように心に刻み込む。


 灰色の偽りの空が地上を覆う。真夜中だというのに、暗くない。
 闇は訪れず、光も訪れない。

「至宝の深紅、漆黒を纏いし闇の一族、白銀に血塗られし一族、癒しの翡翠一族、魔に魅入られし紫翠一族、真実を記す水碧一族、明き華を咲かせよ黄華一族……」

 呟く言葉は何を示すのか。
 此処に誰かがいたら、それに気づいた者もいたかもしれない。
 しかし、この場にいたものは呟く本人、泉のみ。
 例え、全てを知っていたとしても泉は何も自ら進んで語らない。

 それで、どんな犠牲が出ようとも大切な人に害がない限り
 自ら進んで足を運ぶことはしない。

「さて、戻るか」


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