零の旋律 | ナノ

第四話:銀と黒の邂逅


 深夜の街を泉は一人歩く。昼も夜も変わらない薄暗い場所。長く滞在すれば体調を崩すのではと思えるような――。
 普段は昼夜関係なく騒音がするこの街も、今や殆どの罪人が第二の街へ移動している為静かだ。

「おい、その辺にいるんだろ“銀色”」

 第一の街、北の外れに泉はやってきた。そこは最果ての街へ繋がる道であり、好きこんで誰も近づかない場所。誰もいないはずの空間に、泉は呼びかける。

「来てくれないと困るところだったよ」

 そこに一人の人物が現れる。待ち合わせをしていたわけではない。唯、お互いに此処に来るだろうという確信の元、現れたにすぎない。

「銀色、お前は何故白き断罪を野放しにした?」
「野放し、だなんて酷い言い草だね。僕は別に全てを見通せるわけでもないし、そんな力もない。泉君みたいな情報収集能力に突出しているわけでもないんだから」
「その辺は年齢で補っているわけか」

 通常なら、銀髪が僕という一人称を使うと他の罪人達は気味悪がった。しかし泉は特に何も反応しない。それはまるで予め銀髪本来が“それ”であることを知っているかのような。

「年の功というわけさ、って人を年寄り扱いしないで頂けるかな、外見的年齢じゃあ泉君と大して変わらないんだから」
「人は成長をし、歳をとる。しかしお前らにはそれはないだろう」
「態々複数系にしてくれるってことは、やっぱ泉君は僕らのことをご存じのようで。全く、あの時君を殺すのを止めたのは失敗だったか」

 味方には決してならないものであり、計画の邪魔をする危険分子ならあの時始末しておくべきだった――

「俺を殺すのは骨が折れるとは思うけどな」
「僕は負けないから」
「死なないの間違いだろ? 銀色よ」

 ――今からでも、この男を殺すのは遅くないだろうか。
 銀髪はいつも帯刀しているサーベルに手を掛ける。しかし鞘からは抜かない。

「もう一度問うけれど泉君、君は私たちの味方にはなってはくれないのだね?」
「お前らに興味もないし、お前らがしようとしていることにも興味がないさ、唯大切な人を傷つけるのならば誰の敵にでもなろうし、誰の味方にでもなろう……それはお前も同じだろう?」
「あぁ、そうだね。そう、だから君は計画の邪魔になると分かっていながらまだ生かしてしまうんだよ、我ながら愚かしいね」
「けれど、お前らは計画が失敗しないようにいくつもの保険をかけている。だから別に俺一人、生きていようが死んでようが、最終的な計画に支障がなければ問題がないはずだ」

 銀髪は鞘から刃を素早く抜刀する。
 そして、右足に重心を乗せて、泉向けて突き放つ。
 泉はそれを目線で軌道を見極め、顔を傾げるような動作だけで交わす。

「不意打ちでも、そうそう殺されてくれないか」

 銀髪は一撃目が失敗に終わった光景を目にした後は素早く鞘に刃を収め、サーベルから手を放し、肩をすくめる。

「この程度で俺が死ぬなら既に何回死んでいるかわからないな。僕の敵は多く、私の見方は少ない」

 銀髪と泉は共に一人称を、俺と僕と私、と使用した。それはまるで他人に“本当”の自分の姿を見極めさせないためのように。


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