零の旋律 | ナノ

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「じゃあ、篝火も学校に?」
「んなところまでは専門外だ、本人に聞け」
「泉でも知らないことがあるんだ、初めて知った」

 それぞれの事細かな、毎日のご飯の種類までも知っていそうな勢いの泉にも知らないことがあったことに朔夜は驚く。最も、知りたいと思えば泉は今からでもあっさりと篝火の経歴を調べてしまうのだろうが。
 聞かれなかったから、唯調べていなかったから知らなかっただけなのだろう。

「俺を何だと思っている、そんな詳細の個人情報になんて興味ねぇよ、聞かれるなら調べ上げるがお前は篝火の経歴が興味あるのか?」
「興味ねぇ。それが原因で大怪我でもするなら別だが」
「なら、そのうち大怪我するかもな」
「へ?」

 それは一体どういう意味なのだろうか、意味ありげな言葉に朔夜は首を傾げる。
 まだ、対価の範囲内だったのだろう、泉は当たり障りなく応える。

「詳しくは本人にでもきけ。唯軽く教えるんならな……あいつは過去のことを引きずっている。自暴自棄になって盗めるはずのない国宝を盗もうとして捕まって此処に来たくらいだからな」
「自暴自棄に……」

 朔夜は布団を深くかぶる。普段、保護者のような篝火にそんなことがあったとは知らなかった。
 否、誰もそこまで深く知ろうとはしなかっただけ、今の関係を深く突っ込み崩してしまうことを誰もが恐れたから。

「誰にでも自分と同じくらい大切で、失いたくない存在がいる。失ってしまってから大切だと認識する時もあるんだよ」
「泉は、本当に全てを見透かしていても不思議じゃない男だよな……本当にあの野郎と同じくらいわけわからねぇ」
「銀色と同等扱いするんじゃねぇ」

 泉は立ちあがる。沈んでいた布団が僅かに上昇する。

「わかるのかよ、名前あげてねぇのに」
「それくらいわかるての」
「まぁ、この界隈だとそれくらいしかいないか」
「全くだ。最果ての街には変人が多くて困るな」

 そこに限ぎったことではないだろ、とは言わなかった。
 朔夜は目をつぶって、部屋から出ていくであろう泉に一言

「おやすみ」

 返事はなかった。
 唯、静かに扉が閉まる音がするだけ。


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