零の旋律 | ナノ

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 泉は続ける。

「お互いがお互い唯一無二の相棒なのだろう、だから絡は突然の斎の裏切りが許せなかった。裏切りが、というよりも自分の前からいなくなることが。だから、あんなにも感情的になっていたのだろうな」
「やっぱりお前は斎が大怪我をしていると承知の上であえて助けなかったんだな」
「俺が誰のためにだけ動くか、知っているだろう?」

 今こうして一対一で会話していたところで、本当の意味で泉の世界の中には朔夜は入れない。
 例え、郁以外の誰が死んでも、この男は悲しみもしないのだろう。

「郁のためだけか」
「違うさ」
「え?」

 郁以外にこの男が大切だと思う相手がいるのだろうか、朔夜は信じられない目つきで泉を見る。

「もう一人いる」
「誰だよ?」
「秘密だ」
「珍しいな、泉が対価とか言わないで、純粋に秘密だというなんてな」
「単なる私情だからだ」
「そうか……」

 泉はまだ、朔夜のもとから去らない。それはつまり朔夜がまだ知りたいことを教えることを意味していた。
 金の瞳についての質問だけでは対価として成立していないということか、と朔夜は考える。

「……学校ってのはなんだ」

 斎の話した内容を思い出しながら、何か自分の知らないことを探していた朔夜は、ふと学校がなんなのか知らないことに気がついた。

「両親からきかなかったのか?」
「うん」
「まぁ、お前には関係ないことか。学校ってのは同年代のやつらが集まり、そこで勉学とかスポーツとかをやるところだよ。友達を作って一緒に昼食を食べたり、談笑したり遊んだり、クラブ活動で皆と何かに取り組んだりもするところだ」

 朔夜は学校というものを想像する。
 それは罪人の牢獄みたく殺伐としていない、温和な雰囲気が頭の中で描かれる。

「楽しそうだな」
「楽しいか、どうかは個人差があるだろうけれどな」
「泉や郁も学校にいっていたのか?」
「いや、俺らは学校には行っていない、家の外に出ることも滅多になかったしな」

 それは俗にいう引き籠りだったのだろうか、朔夜はそう考えるがそこまでは聞かなかった。
 聞いたところで泉が応えてくれるとは到底思えなかったからだ。だが顔に出ていたのだろう、泉は家の事情だと簡潔に答える。


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