零の旋律 | ナノ

第参話:金の瞳


 明日に備え再び彼らは就寝する。朔夜は自室に戻りベッドの中に潜る。眼を瞑り寝ようとしたが、中々寝付けなくて布団の中でゴロゴロと動く。
 篝火と郁、斎はもう寝たのだろうか規則的な寝息が静かな部屋の中に僅かに聞こえてくる。
 明日は第二の街へ移動する。早く自分も寝付かないと、そう思っている時だった。
 静かに、必要最低限の物音だけを立てて真っ黒な人物――郁よりも十センチ以上高く、切れ長の瞳で朔夜を見ながら、泉がベッドの端に座る。

「なんだ、泉」
「まだ何も対価に見合った情報を渡していないと思っただけだ。何か知りたいことがあるなら話すし、何もないから是は返すよ」

 そういって対価として差し出した品を見せる。

「……」
「お前は知りたかったんだろ? 斎が何を一人で背負いこんでいるのかを、斎を少しでも支えてやりたくて。だから両親が残してくれた大切な宝石の一つを使ってまでも知りたかった、違うか?」

 泉は手の平で赤い宝石を転がす。
 布団から起き上がり、朔夜は泉と視線を合わせる。
 やはり、この男は泉は自分の素性を知っている――朔夜は決意したように口を開く。

「お前はやっぱり俺のことを知っているんだな」
「あぁ、勿論。深紅の血を受け継ぐ一族の者よ」
「……お前は一体何者だ」

 今まで何人の人間が泉にそう問いかけてきたことだろうか、常識を外れるような情報量を所有し、圧倒的情報量で相手の上位に常に立つ。

「俺は、漆黒を纏いし一族の者だ、それだけだよ」
「……結局聞いたところでお前は何も教えてはくれないか、自分たちのことに関しては」
「それは単純にお前の情報量に見合った対価が足りないだけだ。正し、郁のことに関してなら俺はいくら対価を積まれようと応えるつもりはさらさらないがな」

 この際だから、朔夜は疑問を泉に質問することにした。対価に見合った分までなら泉は話す。

「金の瞳はそんなに畏怖されるべきものなのか?」
「そうだな、国じゃあ殆ど見かけない。ある意味貴重とも呼ぶべき存在だな。親が普通の瞳の色をしていても、限りなく低い確率で金色の瞳を持った子が生まれている。人は自分とは違う存在を疎ましく思う存在だ。だから烙は忌み嫌われたんだ。斎に出会うまでその存在意義を見いだせないでいたのだろうな」
「何故金色の瞳は生まれるんだ?」
「遺伝子の突然変異によって起こるのか、現在の医学技術じゃその辺は解明されていないってのが現状だ。ただ、俺の知り合いはこう言っている。そんなものは外と内の違いだと」
「?」
「その辺は俺も専門じゃないんだがな。まぁ術を使う際の使用方法の違いによるらしい。だが、何がどうであれ、人は不可解な他者を恐れる」

 泉ほどの頭脳があれば、情報があれば過去を変えられたのだろうか、過去を変えることは出来ないと頭では理解していても、心は自然と考えてしまう。


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