零の旋律 | ナノ

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「泉」

 自室から再び戻ってきた朔夜は何かを泉に投げる。それを泉は落とすことなくしっかりと掴む。
 掴んだ手の中には小さい宝石が入っていた。

「斎がどんな理由で白き断罪の仲間を殺したのか教えろ」
「!?」

 篝火と郁は驚いた顔をして朔夜を見る。
 二人が決して踏み込まなかった斎の領域に、朔夜は本人の意思とは関係なく知ろうとしたのだ。
 誰にでも隠したい過去はある、ましてここは罪人の牢獄。
 人が罪を犯し、そして今も生き続けているこの場所。
 何か裏がない人間がいないほうがおかしいのだ。
 篝火も郁も、朔夜にいっていな秘密はある。普通に抱えているのだ。
 その秘密を朔夜は今暴こうとした。一年以上の付き合いの中で初めて、朔夜は誰よりも早く行動に移した。

「さく!」

 斎は声をあげて起き上がろうとした。痛みが全身を容赦なく駆け巡るが気合いだけでソファーに横になっている状態から座っている状態になる。しかし、痛みは酷く、ソファーに背を預ける形になる。

「てめぇがいわねぇんなら泉に頼むまでなんだよ、どうせ俺が今理由を教えろといっても篝火や郁、てめぇと違って顔色一つ変えなかった泉なら知っているんだろ、斎の理由と過去を」
「朔……俺が、触れないでって……げはっ、言ったこと覚えてないの!? 人には知られたくない秘密があるんだっ……つぅ、それを朔は無理やり暴くつもりだとでもいうの?」
「あぁ、だって斎はつらそうじゃねぇかよ、一人で抱え込んで一人で我慢して。何のためにお前は親友のもとから一人離れたんだよ、誰にも言えない闇を抱えたまま、そんなの辛いだけじゃねぇかよ」
「朔……」

 ――どうして、口は悪いし態度はでかいし、なのに頭がよくて、なのになのに……どうして朔夜はそんなにも人を見ているの
 ――どうして朔夜は俺に優しくしてくれるの?
 ――どうして、君たちといるとぽかりと開いた空洞が埋まる気がするの

 斎は何処か心が温かくなるような感覚に襲われる。
 その優しさに涙が零れそうになる。
 
「で、どーするんだ、斎。俺の口から離すのか、お前の口から離すのか」

 手の平で宝石をコロコロと転がしながら泉は選択を与える。

「……」
「決めるのはお前だ」

 斎は目を瞑る。

「わかった」

 斎は目を開ける。
 あの時見た光景を、俺が彼らを殺した理由を
 罪を犯した原因を話そう
 斎は重い口をあけた。


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