W 絡の感情に任せた普段より甘い斬りを斎は交わす。 「(接近戦で戦うなんて久しぶりだね)」 斎は術者だが、接近戦で戦えないことなんてない。烙の斬りを交わした斎は間合いに踏み込み右手の拳を繰り出す。それを烙は悠々と交わす。 しばしの攻防が続く。 どちらも本気になることなく。 どちらも本気になれることなく。 唯、偽りの戦いが続く。 「斎、俺を……最初に認めてくれたのはお前一人だったのに、なんで俺の前からいなくなるんだよ」 「絡……」 絡の言葉に斎は思わず攻撃の手を止めてしまった。 絡の攻撃が、無防備となった斎の身体を袈裟斬りにする。 「ら……」 「あっ……」 斎は斬られた反動で後ろに下がり、朔夜の家の壁にぶつかり地面に倒れる。 袈裟斬りにされた傷口からは血が溢れだし、白いパジャマを鮮血に彩る。 斎は壁にもたれかかるように背を向け立ち上がる。 「いなくなるくらいなら、いなくなるくらいなら」 「絡……」 「最初から俺の前に姿などあらわさないでいてくれればよかったんだ!!」 一心不乱に絡は剣技を繰り出す。不規則な動きが斎に襲いかかる。 壁から斎は移動をして、反対側に回るように跳躍した。 しかし、その跳躍をあらかじめ見越していたのか絡の剣は斎のそれより早く斎に右腕を切り裂く 「ぐっ……」 そして、そのまま右の太ももに切り傷を与える。 斎はバランスを崩し、その場に倒れる。 冷たい地面にも赤が付着する。 右手足をやられ、袈裟斬りにされた場所からは血が休まることなく流れ続ける。 起き上がろうとしても、血を流しすぎたのと斬られた痛みが身体を襲い動くことを拒否する。 「俺は……今も昔も大切な親友は絡だけだ」 「いつ……」 「ぐぁぁぁっ!」 止めを刺そうとしていた絡の手から刀が落ちる。斎の言葉に我を失っていた絡は思考を取り戻した。 しかし、それ故に無情にも絡の刀は斎の左足首に刀が突き刺さる形となってしまった。 「俺は、俺のしたことに……後悔していないよっ……」 同じ言葉を繰り返す。 あの時と同じ瞳だ、自分を救いだしてくれた時の瞳と今の斎の瞳は同じだった。 もしも、斎は自分を助けるために罪を犯したのだとしたら ――俺は一体何をすればいい? [*前] | [次#] TOP |