V 罪人の牢獄第一の街は静まり返っていた。普段の喧噪も何も聞こえない。 生き残った罪人は大半が第二の街へ既に移動してしまった後だ。 そこを当てもなく絡はふらつく。会えないのだろうか、もう何処かへ行ってしまったのか――そんな希望と願いと絶望が入り混じった感情に支配されながら歩く。 そして、ある建物に絡は目がついた。人の気配が殆どしないこの場所で、人の気配がする。 時を同じくして、建物の中にいた気配も、外をうろつく自分の気配に気がついたのだろう。程なくしてその人物は建物の中から外へ、彼の前に姿を現した。 悲痛な顔をして。やり過ごすこともできたけれどもそれでも一目会いたかった。 ――俺は裏切ったこと後悔していないよ そう心に呪文を描けるように呟く。 絡の前に彼――斎は姿を現した。 寝巻姿で、けれど白い色の服を斎は着ていた。 「斎……」 会えるとは思っていなかった。会いたかった。けれど会いたくなかった。 じっとしていられなかった。唯、理由を知りたかった。 「絡……」 静寂が二人の空間を包み込む。 このまま何もなかったように昔に戻れたらいいのに。 けれど人は昔には戻れない、唯進んでいく流れの中に身を置くだけ。 「髪、伸びたね」 最後に姿を見たときは、もっと髪が短かったのに、いつの間にこんなに伸びていたのだろう ――あぁ、そうか、そんなにも君の姿を見ていなかったんだね ――絡、久しぶり 「何故、何故だ斎……何故俺を裏切った!」 冷静になろうとしていた、冷静になろうと努めた。 けれどそれは脆くも崩れ去った。 人の決意など感情には勝てないのだろうか。 感情という厄介なる武器が動く。 「……」 「答えろ! 斎、何故何故俺を裏切った!」 「絡」 斎は唯、名前だけを呼んだ。 ――再び面と向かって名前を呼べるだなんてね。 此処に姿を現したのは自らの意思だけれど。斎にとって烙は大切な大切な親友だった。そしてそれは烙にとっても同じ。 「俺は、俺のしたことに後悔をしていないよ」 だから斎は罪を犯した。大切な人が傷つくと知りながら、それでも守ってあげたかった。 「そんな応えを俺は求めていない! 何故……親友だって思っていたのは俺だけなのか?」 「そんなことはないよ、俺にとって絡は唯一無二の親友だ」 「なら、何故俺を裏切った!」 同じ言葉を何度も何度も繰り返す。 今ここで言葉にしただけではない、心の中で何回と数えきれないほど叫んだ。 理由を求め続けた。 絡は手に握っていた真白な刀を鞘から抜く。 鞘を地面へ置く。斎へ絡は我知らずと斬りかかっていた。 「絡……」 ――殺される前に殺せ。今まではずっとそうしてきたようなものだよでも、君は殺せない [*前] | [次#] TOP |