零の旋律 | ナノ

第弐話:何故


 ――闇に溺れ堕ちた俺を助けてくれたのは
 闇の中で輝く一筋の灯
 君がいたから今まで生きてこられた


 事実を出会ったことを話すか、口を閉ざすか白圭は思案する。しかしすぐに決断を決める。何時までも隠し通せることではない。彼がこの罪人の牢獄にいて、自分たちも罪人の牢獄にいる以上、何時かは出会い相対する。事実を知らせないことで、守りとおせるものもある、けれど傷つけるものもある。どちらにしても彼を傷つけるのなら――白圭は口を開く。

「烙。話がある。それに由蘭と砌もな」
「なんだ?」

 一体何の話だろうと砌と烙は首を傾げる。一方の由蘭は視線を足元に泳がしていた。何を話すのか容易に想像がついたからだ。

「……ハル……斎に会った」
「なんだと!?」
「斎に? ……あの子の実力ならこの牢獄でも生きていくことは不可能ではないわね」

 冷静に考える砌とは違い、絡はあからさまに動揺していた。

「白圭! なんで斎が今更……俺たちの前に姿を現すんだ!」
「……それは私たちが罪人の街を滅ぼそうとしているからだろう、生きていくために」
「理由も言わないまま俺の前から姿を消して、理由も言わないまま俺の前に再び姿を現すのかよっ」

 絡は真白の刀を手に取り、第一の街へ向かおうと歩き出した。その手を夢華が掴む。

「何するんだよ、放せ」

 振り払おうとするが、夢華のその力は強く簡単には振り払えない。

「ダメ、だよ? 今行って一体君に何が出来るというの?」
「……そんなこと」
「ダメ、だよ。今行った所で怪我をしている君は唯無駄死にするだけだよ。斎以外にも罪人の牢獄実力者がいるんだからね。冷静になりなよ」

 夢華の言葉に、絡は自嘲する。取り乱していたところで何も出来ないということか。

「そうだな、悪かった」

 夢華は絡の心が変わったのに手を離す。
 しかし、心の奥底に眠るものには目を瞑った。それは自分が指摘したところで、心境が変わることのないモノ。

「烙、例え元仲間だとしても今は敵だ。それだけは忘れるなよ。砌も由蘭もな」

 白圭は念を押す。それは自分自身に対しても念を押しているようだった。元仲間だからと言って、迷いの心があれば勝ち目はなくなる。斎は決して油断していい相手ではない。

「わかっているよ」

 言葉と共に頷く。他の白き断罪の仲間は斎が罪人になった後で新しく入ってきた面々で、斎のことを知らない。

「政府を正すためには、腐敗したこの牢獄から、政府の足枷を外すのだ」

 罪人を、罪を認めさせることも改心させることも、罪を償わせることも何もなく何故、こんな場所に放置する。
 ――するべきことをしないでどうするというのだ


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