\ +++ 郁を休ませる場所として、泉は朔夜の自宅を勝手に採用する。 「郁、大丈夫か?」 リビングのソファーに郁を寝かせる。 最初は篝火のベッドで休ませようとしたが、郁が重傷でもなんでもない、と言い張りソファーで充分だと主張したからだ。 「大袈裟だなぁ、少し傷が開いたのと怪我した程度なのに」 「あのな、死なれたら困るからこうしているんだ」 「……兄貴」 どうして何度も何度も兄に心配をかけてしまうのだろうかと、郁は心の中で、自分自身に対してため息を吐いた。 「たった一人の家族なんだから」 郁は包帯で怪我の手当がされた手首を眺める。 一度ついた傷は二度と消えさりはしない。 刻み込まれたまま過ぎる時に生きる。 「大丈夫だ」 優しい声色。その声に何度も郁は不安定な心を安心させる。 「お前に害をなすものがいるなら、そいつら全員抹殺するからよ」 例え、篝火だろうが朔夜だろうが、斎だろうが泉には関係ない。 郁に害をなす存在になるというのならば、無常にその命を奪い去ろう。 ――君は俺の味方になりうるか? 嘗て聞かれたとい 再び応えようともその答は変わらない 応えは ――否 ――だから君は俺の役者にはなれない 銀色に輝く髪は風に抵抗することなく靡く。 自然の風が存在しないこの場所で蠢く風は毒であり、そこにある空気すら毒の地。 「残念だよ」 彼の者は一言、そう呟く。相対する。 「殺すか? 俺を」 ――僕の正体を知っているはずなのに、どうしてこうも余裕でいられるのか、感心するね。 口に出しはしない、唯姿をみているだけ。銀色に輝く。 「今はやめとくよ」 ――残念だよ、君は僕の役者にはなってくれない [*前] | [次#] TOP |