零の旋律 | ナノ

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 郁を休ませる場所として、泉は朔夜の自宅を勝手に採用する。

「郁、大丈夫か?」

 リビングのソファーに郁を寝かせる。
 最初は篝火のベッドで休ませようとしたが、郁が重傷でもなんでもない、と言い張りソファーで充分だと主張したからだ。

「大袈裟だなぁ、少し傷が開いたのと怪我した程度なのに」
「あのな、死なれたら困るからこうしているんだ」
「……兄貴」

 どうして何度も何度も兄に心配をかけてしまうのだろうかと、郁は心の中で、自分自身に対してため息を吐いた。

「たった一人の家族なんだから」

 郁は包帯で怪我の手当がされた手首を眺める。
 一度ついた傷は二度と消えさりはしない。
 刻み込まれたまま過ぎる時に生きる。

「大丈夫だ」

 優しい声色。その声に何度も郁は不安定な心を安心させる。

「お前に害をなすものがいるなら、そいつら全員抹殺するからよ」

 例え、篝火だろうが朔夜だろうが、斎だろうが泉には関係ない。
 郁に害をなす存在になるというのならば、無常にその命を奪い去ろう。


 ――君は俺の味方になりうるか?

 嘗て聞かれたとい
 再び応えようともその答は変わらない

 応えは
 
 ――否

 ――だから君は俺の役者にはなれない

 銀色に輝く髪は風に抵抗することなく靡く。
 自然の風が存在しないこの場所で蠢く風は毒であり、そこにある空気すら毒の地。

「残念だよ」

 彼の者は一言、そう呟く。相対する。

「殺すか? 俺を」

 ――僕の正体を知っているはずなのに、どうしてこうも余裕でいられるのか、感心するね。
 口に出しはしない、唯姿をみているだけ。銀色に輝く。

「今はやめとくよ」

 ――残念だよ、君は僕の役者にはなってくれない


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